TSMC、5〜10%値上げでも顧客が離れない理由
TSMCの2026年4〜6月期は売上高が前年同期比36%増、純利益は77%増で、ともに四半期として過去最高。しかも7nm以下の全プロセスで5〜10%の値上げを顧客に通知しています。それでも発注が減らない構造を、置換価値の視点で読み解きます。
コスト増をそのまま価格に乗せ、値上げのたびに客離れを恐れている
代替不能な能力が値上げの根拠となり、顧客の側から発注が集まる
何が起きたか
TSMCの2026年4〜6月期は、売上高が前年同期比36%増の1兆2703億台湾ドル(約6兆4000億円)、純利益は77%増の7065億台湾ドルと、売上高・純利益ともに四半期として過去最高を更新しました。AI向けサーバーに搭載される先端半導体が牽引役です。注目すべきは、この好業績と並行して、同社が7nm以下の全製造プロセスで顧客に5〜10%の値上げを通知している点です。該当ノードは2026年のウェハ売上高の約74%を占めます。粗利益率は約67%と、受託製造業として異例の高水準です。
顧客は誰で、何に困っていたか
TSMCの顧客は、自社では工場を持たずに設計へ特化する半導体企業(ファブレス)です。エヌビディアやアップル、AMDといった世界のトップ企業が名を連ねます。その困りごとは、値段ではありません。「作れる場所が世界にここしかない」という一点です。生成AIの爆発的な普及で演算需要が跳ね上がるなか、2nm・3nmといった最先端を量産できる工場を確保できるかどうかが、彼ら自身の事業の生命線になっています。半導体が数ドル高いか安いかより、「そもそも量産枠を押さえられるか」のほうが、はるかに切実な問題なのです。
付加価値の構造──希少な能力が価格の主導権を生む
TSMCが握っているのは、微細化技術と、それを歩留まりよく量産に落とし込む力です。設計図があっても、それを現実の量産品に変えられる工場は世界に数えるほどしかありません。ここにあるのは、カクシンが価値を分類する際の「置換価値」の極限形です。同じ機能を他社では代替できない──だから顧客は「他に頼めない」。
値上げが顧客に受け入れられるのは、TSMCが我慢を強いているからではなく、供給を絶やさないという顧客のリスクを一手に引き受けているからです。値上げは、その希少な能力に顧客が支払う対価そのものです。約67%という粗利益率は、価格の主導権がコストではなく能力の側にあることの証拠だと考えられます。
- コスト増を理由に価格転嫁する
- 「上げたら逃げられる」と怯える
- 値上げが利益率を痩せさせる
- 能力の希少性を根拠に価格を決める
- 「他に頼めない」から受け入れられる
- 値上げが最高水準の利益率を支える
値決めへの接続
多くの企業にとって値上げは「原材料が上がったから、やむを得ず」という守りの一手です。しかしTSMCの値上げは、原価の後追いではありません。5〜10%という幅を、顧客が最も困っている最先端ノードに設定し、それでも発注が減らない。これは価格を、コストからではなく提供価値の希少性から決めているということです。値上げが利益率を痩せさせるのではなく、最高水準の利益率を支える側に回っている。この逆転こそ、価値に基づく値決めの到達点です。
今日の問い
あなたの会社は、値上げを通告したときに顧客から「では他社に頼む」と言われる立場でしょうか、それとも「それでもお願いしたい」と言われる立場でしょうか。値上げを通せるかどうかは、交渉術ではなく、「他に頼めない」と言わせるだけの能力を積み上げてきたかどうかで決まります。あなたの会社の値段は、コストが決めていますか。それとも、代えのきかない能力が決めていますか。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

