
BYDに学ぶ、値引きが利益と価値を溶かす構造
世界最大のEVメーカーBYDの2026年1〜3月期純利益は前年比55%減。値引き率は過去最高の平均10%に達しました。優れた製品を持つ企業でも、値決めを競争に委ねた瞬間に利益が消える構造を読み解きます。
値引きでシェアを守り、価格の主導権を市場に委ねている
差別化された価値を根拠に、自社で値決めの主導権を持っている
何が起きたか
中国EV最大手BYDの2026年1〜3月期の純利益は前年比55%減の40.8億元となり、減益は4四半期連続となりました。車両の平均値引き率は2026年3月に過去最高の10%に達し、2025年通期の純利益も約2割減の326億元。中国EV市場でのシェアは約27%から約17%へ低下したと報じられています。
顧客は誰で、何に困っているか
まず確認したいのは、BYDが技術力でも生産規模でも世界トップクラスの企業だということです。問題は製品ではなく市場の構造にあります。中国市場では小米(シャオミ)や吉利(ジーリー)など競合が相次いで参入し、顧客から見て「どれを選んでも十分によい車」が並ぶ状態、つまりコモディティ化が進みました。顧客の困りごとが「よいEVが欲しい」から「どうせ同じならより安く」へ移った瞬間、選択基準は価格だけになります。この構造下では、業界ルールとして赤字販売を禁じる規制が2026年2月に導入されても値引きは止まらず、中国汽車流通協会の試算では2023〜2025年の価格競争で業界全体の収入が最大4,710億元(約690億ドル)失われたとされています。
付加価値の構造──差別化なき市場では、値引きだけが「機能」する
付加価値とは、顧客の困りごとを解決した分だけ生まれる利益の源泉です。ところが各社の製品性能が拮抗すると、顧客が知覚できる差は価格だけになり、「値引き」が唯一有効な販売手段になります。ここに価格競争の恐ろしさがあります。1社の値引きは競合の値引きで即座に相殺され、顧客への提供価値は増えないまま、業界全体の利益だけが削られていく。しかも値引きは在庫を動かすため一時的に「効いた」ように見えます。BYDがドイツで最大11,500ユーロの値引きに踏み込んだ背景にも在庫の積み上がりが指摘されており、値引き→シェア防衛→さらなる値引きという循環から単独では降りられなくなる構造が読み取れます。現地の販売店からは中古車の残存価値の下落を懸念する声も上がっており、値引きの副作用は新車の利益にとどまらず、ブランドの資産価値にまで及び始めていると考えられます。これは経営の巧拙ではなく、差別化の消失が必然的に生む構造の問題です。
値決めへの接続
学ぶべきは「値決めを競争に委ねた企業は、価値を顧客に語る権利を失う」ということです。価格がライバルの動きで決まる状態とは、自社の提供価値と価格の接続が切れた状態です。逆に言えば、価格競争から抜けるには値下げの停止ではなく、「この顧客のこの困りごとには自社しか応えられない」という土俵の再設定が先に必要です。規制でも止まらなかった値引き合戦が示す通り、構造を変えない限り値決めの主導権は戻らないと考えられます。
今日の問い
あなたの会社の価格は、誰が決めていますか。自社の提供価値から積み上げて決めているか、それとも競合の見積もりが実質的に決めているか。もし後者なら、失われているのは利益だけでなく、顧客に価値を説明する機会そのものかもしれません。