
スタバ、値上げしても客数が増えた訳
スターバックスが7月29日に発表した第3四半期決算で、北米の既存店は客単価3.5%増と客数4.5%増が同時に立ちました。値上げは客数を差し出して取るもの、という前提が崩れています。分かれ目は価格の巧拙ではありません。
値上げのたびに、客数がいくらか落ちることを織り込んでいる
価格以外に来る理由があり、単価と客数が同時に伸びている
何が起きたか
スターバックスが2026年7月29日に発表した2026年度第3四半期決算で、全世界の既存店売上高は前年同期比7.9%増。北米は8.1%増、海外は5.7%増でした。
注目すべきは内訳です。北米は客数が4.5%増、客単価が3.5%増。海外も客数2.6%増、客単価3.1%増。客数と客単価が、同じ四半期に同時に伸びています。
連結売上高は93億ドルで約1%減。3月に中国事業の60%を投資会社ボユー・キャピタルへ売却し、連結対象から外れた影響です。通期見通しは米国・全社の既存店成長率を従来の5%から6%以上へ引き上げました。
顧客は誰で、何に困っていたか
値上げを議論する場では、ほぼ必ずこの前提が置かれます。「単価を上げれば、客数はいくらか落ちる」。あとは落ちる分をどこまで許容するか、という交渉になります。
この前提は、顧客が買っているものを「1杯のコーヒー」と定義したときだけ正しくなります。コーヒーという飲み物そのものは、コンビニでも自販機でも手に入ります。同じものであれば、高いほうを選ぶ理由はありません。
では、なぜ人はわざわざ店に入るのか。コーヒーが手に入らないから来ているのではなく、腰を下ろして使える15分が手に入らないから来ている、と考えるほうが実態に近いはずです。打ち合わせの前に頭を整理する、移動の合間に一息つく、人と向かい合って話す。顧客が困っていたのは飲み物の調達ではなく、その時間を確実に確保できないことでした。
そう定義し直すと、客数の意味が変わります。客数とは「来店した人数」ではなく、その用事のときに真っ先に思い出された回数です。ここが増えているなら、価格は用事を諦めるほどの障害になっていません。
付加価値の構造——価格以外の「来る理由」が残っているか
同社のブライアン・ニコルCEOは今回、「並外れた一杯のコーヒー、人とのつながり、顧客体験こそが日々を制する、という信念の上に立て直しの計画を組んだ」と述べています。抽象的な言葉に見えますが、数字の側から読むと具体的な意味を持ちます。
飲み物の質、待たされないこと、頼んだ通りに出てくること、席に座っていられること。これらは商品スペックの外側にありますが、顧客が「15分を確保する」という用事を果たせるかどうかを、直接決めています。
- 顧客が買っているのは、1杯のコーヒー
- 改善の対象は、原価率と回転率
- 値上げの成否は、改定率で測る
- 顧客が買っているのは、その時間の質
- 改善の対象は、待ち時間・注文の正確さ・店の居心地
- 値上げの成否は、改定後の客数で測る
ここが今回の決算のいちばんの学びです。単価を3.5%上げたのに客数が4.5%増えたのは、値付けが上手だったからではありません。 上げる前に、来る理由のほうを作り直していたからです。順番が逆であれば、同じ3.5%は客数の減少で相殺されていたはずです。
注意も一つ添えておきます。純利益は10.5億ドルと87%増ですが、ここには中国事業売却に伴う5.4億ドルの税引前利益が含まれています。本業の実力を見るなら、利益額よりも「客数と客単価が同時に伸びた」という既存店の内訳のほうが確かな指標です。
値決めへの接続
この構造は、法人取引でもそのまま働きます。
値上げの通り方には二通りあります。一つは、コストが上がったので価格も上げてほしい、という説明。もう一つは、その値段でも取引を続ける理由が値上げの前から積み上がっている状態です。前者は毎回ゼロから交渉が始まりますが、後者は価格が判断材料の一つに戻ります。
そして「取引を続ける理由」は、多くの場合、製品スペックの外側にあります。納期が読めること、トラブル時に人がすぐ動くこと、仕様が固まる前から相談できること。カタログには載らないが、顧客の仕事が前に進むかどうかを決めているものです。ここが薄いまま価格だけを動かすと、単価は上がっても数量が落ちます。
回収の設計としては、単価と数量を同時に取りにいく形です。値上げ分をシェアの縮小で払うのではなく、選ばれる回数を増やしたうえで単価を上げる。 今回の北米の数字は、その順序が成立しうることを示した実例と言えます。
今日の問い
あなたの会社の商品を、顧客はどんな用事のときに思い出しているでしょうか。
その用事を果たすうえで、価格以外にどんな理由が効いているか、社内で言葉にできているでしょうか。
もし出てこないなら、次の価格改定の前にやることがあります。来る理由を一つ増やしてから、値段に手をつける。 その順番だけで、同じ改定率の結果が変わります。
参考: The Motley Fool「Starbucks Raises Its Full-Year Guidance as Comparable Store Sales Jump 7.9%」2026年7月29日(https://www.fool.com/investing/2026/07/29/starbucks-raises-its-full-year-guidance-as-comparable-store-sales-jump-79-heres-what-investors-need-to-know/)/Starbucks Corporation Form 10-Q(2026年6月28日期)(https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0000829224/000082922426000130/sbux-20260628.htm)
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

