
焼肉きんぐ、食べ放題が「安売り」でない理由
物語コーポレーションの2026年6月期第3四半期は売上高21.0%増、経常利益33.7%増。焼肉店の廃業が相次ぐ環境下、定額食べ放題が体験価値の値決めとして機能する構造を解説します。
食べ放題は薄利多売の集客手段と位置づけられている
定額の食べ放題が体験価値の値決めとして利益を生んでいる
何が起きたか
「焼肉きんぐ」を主力とする物語コーポレーションは2026年5月8日、2026年6月期第3四半期決算を発表しました。累計売上高は前年同期比21.0%増の1121億円、経常利益は33.7%増の91.2億円。総店舗数は895店に拡大し、通期でも売上高1471億円(18.7%増)を見込む増収増益基調です。原材料高で焼肉業態の廃業が相次ぐと報じられる環境下での快走です。
顧客は誰で、何に困っていたか
顧客の中心は、家族連れや仲間内のグループです。焼肉は本来「行事」の食事ですが、単品注文の焼肉店には独特の緊張があります。頼むほど膨らむ会計、子どもの「もっと食べたい」と財布の相談、追加注文のたびの気兼ね。楽しいはずの席で、幹事や親だけが電卓を叩いている──この「会計の不安が体験に影を落とす」ことこそ、潜在的な困りごとでした。焼肉きんぐの定額食べ放題は、この不安を入口で取り除きます。
付加価値の構造──定額が解放する「心置きなさ」
機能は、テーブルで注文し配膳される食べ放題。便益は、支払額が最初から確定していて、誰もが気兼ねなく好きなだけ頼めること。価値は、「今日は焼肉きんぐに行こう」という家族の行事が、最後まで心置きなく楽しい時間で終わることです。
- 肉質と価格が比較の対象になる
- 客単価は注文の積み上げ次第
- 会の楽しさ全体が評価される
- 支払額が最初から確定している
食べ放題は一般に薄利多売の集客装置と見られがちですが、この構造では逆です。定額制は「たくさん食べる人向けの割安さ」を売っているのではなく、「会計を気にする心理コストの除去」を売っています。だから比較の対象は単品焼肉店のグラム単価ではなく、家族の時間の満足度になる。価格競争の土俵から降りた分、メニュー開発や配膳の演出といった体験づくりに投資でき、それがまた客数を呼ぶ好循環が生まれます。
値決めへの接続
定額食べ放題とは、体験一式にあらかじめ値段をつける「パッケージの値決め」です。単品積み上げ型では顧客が一品ごとに価格を判断しますが、定額型では「この楽しさに一人いくらか」という一度きりの判断に集約されます。判断の単位を商品から体験に引き上げることで、原材料のコスト構造と顧客の支払い心理を切り離せる。33.7%の経常増益は、この値決め設計が規模の拡大と両立している証左と考えられます。
今日の問い
あなたの会社の見積もりは、部品や工数の積み上げで顧客を不安にさせていないでしょうか。顧客が本当に判断したいのは単価ではなく「この成果一式にいくら払うか」かもしれません。体験や成果の単位で値段をつけ直す余地を、一度探ってみてください。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


