価格転嫁の仕組みがあっても、なぜ遅れるのか
東京ガスと大阪ガスが2026年4〜6月期を発表。原料費調整制度という自動で価格に転嫁する仕組みを持ちながら、両社とも営業減益でした。仕組みがあってもなお残る「時間差」から、値決めの設計を考えます。
原価が上がってから、値上げをどう切り出すかを考え始めている
原価の変動が、あらかじめ決めた仕組みで価格に反映されている
何が起きたか
東京ガスと大阪ガスが2026年7月30日、それぞれ2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の決算を発表しました。
東京ガスは売上高6,734億円(前年同期比4.0%増)に対し、営業利益は554億円で同11.4%減。大阪ガスは売上高4,780億円(同1.5%増)に対し、営業利益は313億円で同34.3%減です。両社とも増収でありながら、営業段階では減益でした。
大阪ガスは決算短信で、減益の要因を「原料価格等の変動が販売単価に反映されるまでのタイムラグによる減益影響」と明記しています。東京ガスも、営業費用の増加要因を「原油価格の上昇影響等による売上原価の増加」と説明しています。同社の資料によれば、原油価格は前年同期の1バレル75.19ドルから112.71ドルへ、為替は1ドル144.60円から159.57円へと動きました。
なお東京ガスの四半期純利益は355億円で同65.0%減となっていますが、これは前年同期に計上された為替換算調整勘定取崩益がなかったことなどによるもので、本業の動きとは別の要因です。
顧客は誰で、何に困っていたか
都市ガスの顧客は、家庭と、業務用・工業用の事業者です。この顧客が価格について抱える困りごとは、「安くしてほしい」だけではありません。いくらになるのか分からない、という不確実性そのものが困りごとです。
エネルギーは事業の前提コストです。半年後の単価が読めなければ、製品原価も見積書も組めません。家庭にとっても、来月の請求額が説明なく倍になる可能性があることは、それ自体が負担です。
この困りごとに対して、ガス・電力業界は制度として答えを持っています。原料費調整制度・燃料費調整制度です。原料価格や燃料価格の変動を、あらかじめ決められた算定式に従って販売単価に反映する仕組みで、事業者が個別に交渉して値上げを通すのではなく、ルールとして価格が動きます。
付加価値の構造──「転嫁するか」ではなく「いつ反映されるか」
多くの企業にとって、原価上昇局面の論点は「値上げを受け入れてもらえるか」です。交渉が通れば転嫁でき、通らなければ自社が飲む。転嫁できるかどうかが、そのまま利益の振れ幅になります。
制度を持つ業界では、この論点が一段ずれます。転嫁するかどうかは決まっている。残る変数は、反映までにどれだけの時間差があるかです。大阪ガスが「タイムラグによる減益影響」と表現しているのは、まさにこの一点です。原価が先に上がり、価格の反映が後から来る。その間の期間だけ、利益が圧縮されます。
- 値上げのたびに、顧客と一から交渉する
- 交渉が通るかどうかで、転嫁の可否が決まる
- 原価上昇局面の利益は、交渉力に左右される
- 価格の変わり方が契約時点で共有されている
- 転嫁の可否ではなく、反映までの期間が論点になる
- 原価上昇局面の利益は、反映までの時間差に左右される
ここから読み取れることは二つあります。
一つは、仕組みを持つことの効果です。原油価格が1バレルあたり37ドル上昇し、為替が15円動いた局面で、両社の営業減益は11.4%と34.3%にとどまりました。交渉ベースで転嫁している事業者が同じ幅のコスト変動に直面したとき、四半期単位でこの水準に収まるかどうかは、交渉力次第になります。制度は、転嫁の可否という論点そのものを消しています。
もう一つは、仕組みがあってもなお残るものです。時間差は消えません。両社の減益は、制度が機能していないことを示すのではなく、制度が機能してもなお四半期の損益はこれだけ振れることを示していると考えられます。
なお、この期の需要側の数字も添えておきます。東京ガスの都市ガス販売量は前年同期比1.1%減(家庭用は春先の高気温の影響等で10.6%減、業務用・工業用は2.2%増)、小売のお客さま件数は0.5%増。大阪ガスのガス販売量は2.3%減、ガス供給件数は1.0%増。価格が上がる局面でも、契約件数は両社とも増えています。 価格の変わり方が事前に共有されていることと、顧客が離れないことは、無関係ではないと考えられます。
値決めへの接続
この事例から取り出せる論点は、値上げ幅ではありません。値決めのルールを、契約のどの時点で顧客と共有しているかです。
原価連動の考え方自体は、インフラ業界の専売特許ではありません。鋼材・樹脂・物流費に連動する条項を取引契約に組み込む、指数を明示してスライドさせる、改定のタイミングを年2回と決めておく——製造業や受託サービスでも設計可能な形です。
違いが出るのは、その取り決めが「事後の交渉」なのか「事前のルール」なのかというところです。事後の交渉では、原価が上がるたびに、通るか通らないかの勝負が発生します。値上げが通らなければ利益が削られ、通ったとしても、そのたびに関係に負荷がかかります。事前のルールであれば、価格が動くこと自体は既に合意済みです。論点は反映のタイミングだけになります。
そして、その反映のタイミングこそが次の設計対象になります。両社の今期は、反映が3か月遅れれば、その3か月分は自社が負担するという事実を数字で示しています。連動条項を持つ企業にとって、次に詰めるべきは連動の有無ではなく、参照する指数の頻度と反映までの期間です。
今日の問い
あなたの会社の主要な取引契約に、原価が動いたときに価格がどう変わるかを書いた一文はあるでしょうか。
もしなければ、原価が上がるたびに交渉が始まります。その交渉に勝てるかどうかが、利益を決めることになります。もしあるなら、次の問いはこうです。その式は何を参照し、変動が価格に届くまで何か月かかるか。 その期間の負担は、いま誰が引き受けているでしょうか。
参考: 東京瓦斯株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年7月30日(https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20260730-01.pdf)/大阪瓦斯株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年7月30日(https://www.daigasgroup.com/ir/library/earnings/)
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。
