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エリエール、15%値上げでも選ばれる条件

消費財・食品値決め価格転嫁コモディティ消費財潜在ニーズ

大王製紙が本日8月1日納品分から、家庭用・業務用製品の全品を15%以上引き上げます。製紙大手が同時期に同じ幅で動くこの改定は、コスト起点の値上げが持つ構造と、その後に何が必要になるかを教えてくれます。

現状

原価が上がった分を、そのまま価格に乗せている

理想

値上げ後も選ばれる理由が、商品の側に用意されている

何が起きたか

大王製紙は本日2026年8月1日の納品分から、家庭用・業務用製品の全品を現行価格より15%以上引き上げます。発表は5月15日。対象はエリエールブランドのトイレットペーパー、ティッシュペーパー、紙おむつ、生理用品、ペーパータオルなど、家庭紙のほぼ全域です。

同社は理由として、中東地域の情勢不安に伴う原材料・資材の調達価格上昇、エネルギー価格の変動、供給面での不透明感を挙げ、生産性向上や経費削減を続けてきたものの、自助努力のみでは吸収できない状況にあると説明しています。

そして製紙大手各社も、同じ時期に同水準の改定を相次いで発表していると報じられています。1社の判断ではなく、業界全体が同じ方向に同じ幅で動く改定である、という点がこのニュースの本質です。

顧客は誰で、何に困っていたか

家庭紙の顧客は、一般家庭と、施設・オフィス・店舗などの業務用ユーザーです。

この商品カテゴリの難しさは、顧客が「困っている」と自覚していないところにあります。トイレットペーパーを切らして困ることはあっても、「もっと良いトイレットペーパーがほしい」と考えながら暮らしている人は多くありません。顕在ニーズは「切らさないこと」と「安いこと」の二つに収束します。

一方で、言葉にされていないニーズは確実に存在しています。肌あたり、ロールの持ち、収納のかさばり、詰め替えの手間、災害時の備蓄しやすさ。業務用ならさらに具体的で、施設の消耗品は使用量が読みにくく、補充のたびに人手がかかります。ここでの本当のコストは「1ロールいくら」ではなく「1か月に何回、誰が補充に回るか」です。

ただし多くの購買現場で、この商品は単価で比較されています。言葉にされていないニーズには、値段がつきません。 それがコモディティと呼ばれる状態の中身です。

付加価値の構造——コストが上げた価格は、まだ価値になっていない

今回の改定の経路を、そのまま図にするとこうなります。

原価の上昇
原材料・エネルギー・資材の調達価格が上がる
価格の改定
全品を15%以上引き上げる
顧客に起きること
この経路の途中に、顧客の便益が増える段はない

原価が上がり、価格が上がる。この経路には、顧客の困りごとが減る段が一つもありません。これは大王製紙の設計の問題ではなく、コスト起点の値上げが構造的に持つ性質です。転嫁は経営として当然の判断であり、行わなければ品質と安定供給そのものが維持できません。

同時に、この経路には二つの帰結がついてきます。

一つは、説明の主語が自社になることです。中東情勢、為替、エネルギー——いずれも事実ですが、顧客にとっては自分に関係のない話です。顧客が受け取るのは「同じものが15%高くなった」という一文だけになります。

もう一つは、値上げ後も比較の土俵が変わらないことです。業界全体が同じ幅で動けば、相対的な価格順位は元のままです。全員の価格が上がった直後の売場は、これまで以上に価格を見比べられる場所になります。

コストが動いたから価格を上げる
  • 値上げの説明は、自社の事情から始まる
  • 同業他社と同じ幅・同じ時期に動く
  • 値上げ後、価格は再び比較の対象に戻る
顧客の困りごとが減ったから価格を上げる
  • 値上げの説明は、顧客に起きる変化から始まる
  • 自社の都合で幅と時期を決められる
  • 値上げ後、比較されるのは価格以外になる

だから、コスト起点の値上げは「終わり」ではなく「起点」だと考えられます。15%引き上げた価格が定着するかどうかを決めるのは、値上げの理由ではなく、その価格で選ばれ続ける理由が商品の側にあるかです。

エリエールのような指名で買われるブランドが持っている資産は、まさにここです。売場で価格を見比べる前に、手が伸びる。その状態を作れている商品だけが、全社一斉の値上げ局面を「順位が変わらないまま通過する」ことができます。逆に言えば、指名がない商品にとって、一斉値上げはそのまま安い方へ乗り換えられる機会になります。

値決めへの接続

この事例から取り出せる論点は、値上げ幅ではありません。値上げの根拠が、自社の原価表の中にあるのか、顧客の業務の中にあるのかです。

原価表の中に根拠がある値上げは、原価が落ち着けば値下げ圧力に戻ります。回収できるのは、上がったコストの分だけです。顧客の業務の中に根拠がある値上げ——補充回数が減る、廃棄が減る、クレームが減る、在庫スペースが空く——は、原価と切り離して価格を保てます。回収できるのは、顧客の側で消えた手間の分です。

家庭紙のような成熟商品でも、この接続は設計できます。業務用であれば、単価ではなく「1か月あたりの補充工数」で提案する。家庭用であれば、詰め替え頻度や収納量といった、価格表に現れない負担を数字にする。顧客の困りごとを言葉にする作業が、そのまま値決めの根拠づくりになります。

今回の一斉改定は、この作業をしてきたかどうかが結果に出る局面だと考えられます。全社の価格が同時に上がった売場で、価格以外の理由を持っている商品と、持っていない商品の差が見えるようになるからです。

今日の問い

あなたの会社が直近に実施した値上げの案内文を、もう一度読んでみてください。

そこに書かれている値上げの理由は、自社の事情でしょうか。それとも、顧客に起きる変化でしょうか。

もし自社の事情しか書けていないなら、それは商品が悪いのではなく、顧客の困りごとがまだ言葉になっていないだけかもしれません。次の改定までに言語化できる困りごとは、どれでしょうか。

参考: 大王製紙株式会社「家庭用・業務用製品の価格改定のお知らせ」2026年5月15日(https://www.daio-paper.co.jp/news/)

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

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