エス・エム・エス、増員しても生産性が落ちない訳
医療・介護人材のエス・エム・エスが2027年3月期第1四半期を発表。担当者を前年同期比6%増やし、新人比率が高まる局面にもかかわらず、一人当たり売上高は8.1百万円と前年を上回りました。増員と生産性が同時に成り立つ構造を読み解きます。
人を増やせば一人当たりの生産性は下がるもの、と受け止められている
増員と一人当たり生産性の向上が、同時に成り立っている
何が起きたか
エス・エム・エスが2026年7月29日、2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の決算を発表しました。売上高は202億円で前年同期比8%増、営業利益は43億円で同19%増です。
注目したいのは利益額ではなく、同時に開示された事業KPIのほうです。人材紹介を担うキャリアパートナー(CP)の四半期平均人数は1,650人で前年同期比6%増、当期の新規採用は225人(前年同期比+50人)。採用を積極化して新人の比率が高まる局面でありながら、CP一人当たりの四半期売上高(同社が「生産性」と呼ぶ指標)は8.1百万円と、前年同期の8.0百万円を上回りました。
過去5年の同じ4-6月期で並べると、2024年4-6月期の7.5百万円を底に、8.0、8.1と戻しています。2024年4-6月期は新規採用が350人と最も多かった期です。採用を増やした期に生産性が落ち、その後戻すという波が、今期は起きていません。
顧客は誰で、何に困っていたか
人材紹介の顧客は、求職者ではなく求人事業者です。医療機関、介護・障害福祉事業所、保育施設——いずれも人手不足が構造的に続いている現場です。
この顧客の困りごとを「人が採れない」と要約すると、解決策は「候補者を多く連れてくること」になります。しかし現場の困りごとは、もう一段深いところにあります。採用したのに合わなかった、早期に辞めてしまった、そのたびに現場が採用のやり直しに時間を取られる——数を集めることでは解けない部分です。
この違いは、価格の性質を変えます。数を集めることが価値なら、事業者は「多く連れてくる会社」を選び、比較軸は紹介手数料の率に寄っていきます。合う人が来ることが価値なら、比較軸は率ではなく、来た人が現場に馴染むかどうかに移ります。
付加価値の構造──マッチング精度は、誰の時間を節約しているか
同社は今期の人材紹介について、AI活用等によるマッチングプロセスの改善が引き続き寄与したと説明しています。ここで起きている変換を分解します。
AIによるマッチング改善は、まず自社側の効率を上げます。CP一人が扱える案件が増え、生産性の数字に表れる。これは社内の話です。
同時に、顧客側でも別のことが起きています。候補者と職場の食い違いが減れば、事業者は面接や受け入れのやり直しに使う時間が減ります。同社の生産性向上と、顧客の手戻り削減が、同じ仕組みから同時に出てくる——ここが構造の要点です。
自社の効率化だけが目的なら、浮いたコストは値引き原資になりやすい。顧客の時間も同時に節約しているなら、それは価格の根拠になります。
- 受注が増えたら人を増やす。単価は据え置く
- 新人が増えた期は、生産性の低下を織り込む
- 「何人動かせるか」が事業計画の変数になる
- 人を増やしながら、一人が生む価値そのものを上げる
- 新人が増えた期でも、仕組み側が精度を補う
- 「一人がいくら生めるか」が事業計画の変数になる
裏付けとして挙げられるのが、厚生労働省の委託事業として実施された求人事業者向けのサービス品質調査です。同社は「総合」と分類別3項目(担当者との連携・信頼関係/マッチング・定着/紹介事業者に対する信頼・納得感)の全4部門で上位3社に選出されました。令和7年度の就職者数は50,641人。規模が最も大きい事業者が、同時に品質評価でも上位に入っているという状態です。
規模と品質は、しばしばトレードオフとして語られます。件数を追えば一件あたりの丁寧さが落ちる、という理解です。同社の今期は、そのトレードオフが仕組みの側で緩和されうることを示していると考えられます。
もう一つの事業でも同じ形が見えます。介護・障害福祉事業所向けのクラウド経営支援ソフト「カイポケ」等は、顧客法人数が27,600社で前年同期比8%増、一法人当たりの平均売上高(ARPA)は121千円で同4%増、年間経常収益(ARR)は135億円で同13%増。法人数の増加率(8%)を上回ってARRが伸びている(13%)のは、一社あたりの単価も同時に上がっているからです。同社はファクタリングやタブレット等の有料オプションの利用拡大を要因に挙げています。
値決めへの接続
回収の形は、値上げではありません。単価を構成する要素そのものを増やす、という回収です。
人材紹介では、CP一人当たりが生む売上を8.0百万円から8.1百万円へ。SaaSでは、一法人当たりの平均売上高を116千円(前年同期)から121千円へ。どちらも大きな幅ではありません。しかし、値上げ交渉を経ずに単価が上がっている点が重要です。
このとき顧客が受け入れているのは、価格の上昇ではなく、受け取るものが増えたことです。事業所は採用ソフトに加えて資金繰りや端末の面倒も同じ相手に任せられる。事業者はマッチング精度が上がることで採用のやり直しが減る。単価は結果として上がっています。
なお同社は、第2四半期以降も採用等の投資を継続するため、通期では期初計画どおりの利益水準を見込むとしています。今期の生産性向上は、投資を止めた結果ではないという点は、構造を読むうえで押さえておきたいところです。
今日の問い
あなたの会社では、来期の売上をどの変数で説明しているでしょうか。
「営業を何人増やすか」で組んでいるなら、売上は人数の関数です。人を増やせば生産性は下がる、という前提もそこから来ます。一人当たりが生む価値を上げる手段を、仕組みの側に持っているか。 そしてその仕組みは、自社の効率だけを上げるものでしょうか、それとも顧客の手間も同時に減らすものでしょうか。後者であれば、それは値引きの原資ではなく、価格の根拠になります。
参考: 株式会社エス・エム・エス「2027年3月期 第1四半期決算及び会社説明資料」2026年7月29日(https://www.bm-sms.co.jp/ir-news/20260729-3/)
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。



