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上場ホテルの客室単価はなぜ2倍になったか

マクロ・調査ホテル客室単価値決め

東京商工リサーチの調査で、上場ホテル15ブランドの平均客室単価が前年比12.6%増の1万6,679円、コロナ最安期の2倍超になりました。値下げで埋めるのではなく、高稼働と高単価を同時に成立させた業界の値決めの転換を読み解きます。

現状

需要が読めないと、まず値下げで客室を埋めにいってしまう

理想

稼働と単価を同時に見て、価値に見合った価格で埋めている

何が起きたか

東京商工リサーチ(TSR)の調査によると、上場ホテル13社・15ブランドの2025年3月期の平均客室単価は1万6,679円で、前年同期比12.6%増でした。15ブランドすべてで前年を上回り、コロナ禍で最安だった2021年同期の平均7,755円からは114.5%増と2倍以上に上昇しています。稼働率も15ブランドすべてが70%を超え、9ブランドは80%以上。上昇率トップは「東急ステイ」で20.4%でした。

上場ホテル 平均客室単価の推移(円)
7,755 2021年3月期 16,679 2025年3月期
出典: 東京商工リサーチ 上場ホテル15ブランド調査

顧客は誰で、何に困っていたか

ホテルの顧客には、価格で選ぶ層と、体験で選ぶ層があります。コロナ禍で需要が消えたとき、多くの宿泊業は前者に賭け、値下げで客室を埋めにいきました。しかしそれは「安いから泊まる」顧客を集める戦略で、稼働は上がっても利益は痩せます。回復局面で問われたのは、需要が戻ったときに単価を戻せるか、でした。この局面で困るのは、値下げでしか客室を埋める術を持たない事業者です。一度「安さ」で選ばれると、価格を上げた瞬間に顧客が離れる。値下げは、短期の稼働と引き換えに、値決めの主導権を手放す行為でもあるのです。

付加価値の構造──「埋める」と「値づけする」を切り離す

今回のデータが示すのは、稼働と単価を同時に上げられた、という事実です。通常なら、単価を上げれば稼働は下がると考えられます。それが両立したのはなぜか。

機能
立地・体験・インバウンド需要に応じた動的な価格設定
便益
払う価値のある宿泊体験に、見合った対価が乗る
価値
「安いから泊まる」でなく「その体験のために泊まる」が成立

インバウンドを含む需要の回復を背景に、ホテル各社は立地・設備・体験に応じた動的な価格設定へ舵を切りました。「空室があるから下げる」のではなく、「この体験にはこの価格」という基準で値づけし、その価格で埋めていった。稼働率70%超という数字は、高い単価でも顧客が納得して泊まっていることの裏づけです。つまり値上げは需要に押されただけでなく、「値下げで埋める」から「価値で埋める」への設計変更として成立しています。

空室を値下げで埋める
  • 稼働率を上げるために単価を下げる
  • 埋まっても利益が薄い
価値で高単価のまま埋める
  • 稼働70%超を保ちながら単価を上げる
  • 高稼働と高単価が両立する

値決めへの接続

このホテル業界の動きは、あらゆる業種への示唆を含んでいます。需要が不安定なとき、最も安易な手は値下げです。しかし値下げは、集めた顧客を「価格で選ぶ層」に固定し、回復局面での単価回復を難しくします。上場ホテルが2倍超の単価を実現できたのは、需要の谷でも値決めの軸を「安さ」に振り切らず、体験価値を磨き続けたからだと考えられます。稼働(量)と単価(質)は本来トレードオフではなく、価値が伴えば両立します。これは景気や需要の波を越えて効く原則です。

今日の問い

あなたの会社は、需要が落ちたとき真っ先に値下げを検討していないでしょうか。値下げで埋めた稼働は、需要が戻っても単価を戻しにくくします。「安いから選ばれる」のか「その価値のために選ばれる」のか──この違いが、回復局面での利益を分けます。次に需要が揺らいだとき、価格以外にどんな価値で埋められるかを、今のうちに考えておく価値があります。

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

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