
エルメス、逆風下でも米州17%増の価値戦略
2026年第1四半期、為替の逆風で報告ベースは微減ながら、恒常為替では6%成長。米州は17%増。エルメスが公式に語る「価値戦略」は、値引きに頼らない値決めの教科書です。
逆風期は値引きと経費削減で耐えるものと考えられている
顧客ロイヤルティを軸にした価値戦略が逆風下の成長を支えている
何が起きたか
エルメスは2026年4月15日、第1四半期の売上高が41億ユーロだったと発表しました。為替のマイナス影響が2.9億ユーロに及び、報告ベースでは1%の微減。しかし恒常為替では6%成長し、米州は17%増、日本と欧州(フランス除く)は10%増と、地政学的な緊張が続くなかでも主要市場の成長を維持しました。
顧客は誰で、何に困っているか
エルメスの顧客は、単に高級品がほしい人ではありません。「お金では買えないもの」を探している人です。世の中に高価なバッグは無数にありますが、支払えば誰でも手に入るものは、手に入れた瞬間に特別ではなくなる。顧客の潜在的な困りごとは「支出を自分の物語に変えられる対象が少ない」ことです。職人の手仕事、長い待ち時間、店との関係──エルメスはこの「手に入れるまでの過程」まで含めて価値を設計しています。
付加価値の構造──「価値戦略」を公式に語る会社
注目すべきは、同社がプレスリリースの中でアジア市場の成長要因を「地元顧客のロイヤルティと、メゾンの価値戦略(value strategy)」と説明していることです。値引きやセールの話は一切出てきません。語られるのは、革製品部門(9%増)を支える生産能力の増強、フランス国内での職人工房の新設、そしてコレクションの創造性です。
機能は、職人による一貫した自社生産。便益は、世代を超えて使える完成度と希少性。価値は、持つこと自体が顧客の物語になる体験です。
観光客の往来が細った市場でも地元顧客が支える構造は、この価値が国境や景気ではなく「人との関係」に根ざしていることを示しています。
中東情勢で観光客が減るなか、日本は地元顧客の来店とロイヤルティに支えられ10%成長。旅行者頼みではなく「その土地のファン」が育っている証左です。
値決めへの接続
エルメスの値決めは、需要が強いから吊り上げるという単純なものではありません。供給を職人の育成速度に合わせて律し、価格は品質と工数の裏づけをもって着実に改定する。この「売れるからといって作りすぎない」規律こそが、価格の正当性を長期的に守っています。為替で2.9億ユーロが吹き飛んでも値引きに走らず、恒常為替6%成長を確保した今回の決算は、価値戦略が景気変動への最良の防御でもあることを示していると考えられます。
今日の問い
あなたの会社は、逆風が来たとき何を削り、何を守るでしょうか。値引きで数量を守るのか、価値の裏づけを守るのか。顧客が「この会社の商品は特別だ」と感じる理由を、あなたは言葉にして経営計画に書けているでしょうか。エルメスは、それを「価値戦略」と呼んで決算資料に書いています。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


