
ロレックス、年2回目の値上げを設計する技術
1月の全面改定に続き、6月1日から金無垢モデルを約5%再値上げ。スチールは据え置き。金価格の高騰を素材別に転嫁する「外科手術のような値上げ」に、価格改定の設計思想を見ます。
原価上昇分は言い出しにくく、一律で小刻みな値上げになっている
根拠を示し、対象を絞った値上げが顧客に受け入れられている
何が起きたか
ロレックスは2026年6月1日、金無垢モデルを約5%、金とスチールのコンビモデルを約2.5%値上げしました。スチールモデルは据え置きです。1月1日にも4〜9%の値上げを実施しており、年内2回目。時計専門店Luxury Bazaarの集計では、デイデイト36(イエローゴールド)は45,900ドルから48,200ドルになりました。背景には、過去3年で約2倍になった金価格の高騰があります。
顧客は誰で、何に困っているか
顧客は、成功の証としての一本を求める購入者と、資産価値も視野に入れる収集家です。彼らの困りごとは「高いこと」ではありません。「買った後に価値が下がること」「本物かどうか確信が持てないこと」です。むしろ素材コストの上昇が正確に価格へ反映されることは、この顧客層にとって、手元の一本の価値が守られていることの証明として機能します。値上げが不満ではなく安心の材料になる──この関係性は一朝一夕には築けません。
付加価値の構造──値上げは「どこを上げないか」で決まる
今回の改定の設計を見てみましょう。金価格の高騰という原因に対して、影響を受ける金無垢モデルは約5%、金の使用量が少ないコンビは約2.5%、金を使わないスチールは据え置き。コスト要因と値上げ幅が正確に対応しています。
- 全モデル横並びで数%上げる
- 理由を語らず察してもらう
- 金無垢は約5%、コンビは約2.5%、スチールは据え置き
- 金価格の高騰という根拠が明確
機能面では同じ時を刻む道具でも、素材ごとに価値の構造が違う。金無垢の顧客は素材の資産性まで含めて買っており、スチールの顧客は精度と象徴性を買っている。値上げの設計がこの違いを尊重しているからこそ、顧客は「便乗値上げ」ではなく「誠実な転嫁」と受け取ります。どこを上げるかと同じくらい、どこを上げないかが、値上げの説得力をつくるのです。
値決めへの接続
年2回の価格改定は、日本企業の感覚では顧客の反発が怖い頻度でしょう。しかしロレックスは、毎年1月の定期改定を7年続け、市況が大きく動けば年央にも動く。値上げが「異常事態」ではなく「価値を正確に保つための定例の手続き」として顧客に理解されています。値上げの頻度を上げることは、1回あたりの幅を抑えることでもあり、結果的に顧客の負担感を平準化する。値上げは頻度・幅・対象・根拠の4つで設計するものだと、この事例は教えてくれます。
今日の問い
あなたの会社の値上げは、全商品一律になっていないでしょうか。コスト上昇の原因と値上げの対象は対応しているでしょうか。「どこを上げ、どこを守るか」を語れる値上げは、顧客との信頼をむしろ深める機会になります。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。



