
高島屋、インバウンド18%減でも売上1兆円の理由
高島屋の2026年2月期はインバウンド売上が18%減。それでも営業収益1兆円を堅持できたのは、外商を中心とする国内富裕層の存在でした。「追い風」と「顧客基盤」の違いを考えます。
追い風の需要に売上を依存し、外部環境の変動に業績が左右される
顔の見える顧客との長期の関係が、環境変化の中でも収益を支えている
何が起きたか
高島屋は2026年4月14日、2026年2月期の決算を発表しました。総額営業収益は前年並みの1兆323億円で、大台の1兆円を堅持。営業利益は6.9%減の535億円ながら期初計画を上回りました。注目すべきはその中身です。インバウンド売上高が18%減少する逆風の中、外商を中心とする国内富裕層の売上が堅調に推移し、これをカバーしたと報じられています。
顧客は誰で、何に困っているか
百貨店の顧客は二層に分かれます。一つは訪日客をはじめとする「追い風の顧客」。為替や国際情勢で増減し、百貨店側からはコントロールできません。もう一つが、外商顧客に代表される「基盤の顧客」です。彼らの困りごとは、モノが買えないことではありません。宝飾品や美術品のような大きな買い物こそ、「信頼できる目利きに相談したい」「自分の好みや事情を分かってくれる相手から買いたい」というニーズが強くなります。金額が大きいほど、失敗のリスクも大きい。富裕層が買っているのは商品そのものに加えて、この「安心して任せられる関係」だと考えられます。
付加価値の構造──「追い風」ではなく「基盤」が守った
今回の決算が示すのは、二層の顧客の性質の違いです。インバウンド売上は18%減りました。しかし国内富裕層の売上は下期から持ち直し、収益を下支えしました。
- 為替や国際情勢で増減する
- 誰が買ったか分からない
- 環境が変わると消える
- 顧客との関係の深さで決まる
- 一人ひとりの好みを把握している
- 環境が変わっても残る
外商という仕組みを分解すると、機能は「担当者が顧客一人ひとりの好みと購買履歴を把握していること」。便益は「顧客が探す手間なく、自分に合う品と提案に出会えること」。価値は「大きな買い物を安心して任せられる相談相手がいること」です。
この価値は一朝一夕には作れません。だからこそ、外部環境が変わっても簡単には失われない。追い風の売上は環境とともに消えますが、関係の売上は残る──1兆円の堅持は、この構造の証明と言えます。
値決めへの接続
外商型のビジネスで回収されているのは、商品の仕入れ値との差額だけではありません。提案・目利き・アフターフォローという人的サービスの価値が、高額品の粗利に織り込まれています。重要なのは、この価値が値引き圧力を受けにくいことです。「誰から買うか」で選ばれている顧客は、他店との価格比較で動きません。一方、追い風の顧客は価格と為替で動きます。どちらの売上で利益を作るかは、値決め戦略そのものです。高島屋の決算は、利益の土台を「関係性の顧客」に置くことの意味を示していると考えられます。
百貨店は「モノはECで買える時代」と言われて久しい業態です。それでも人が介在する販売が収益を支えているという事実は、対面の提案力そのものが値決め可能な商品であることを示しています。売っているのがモノなら価格競争から逃れられませんが、売っているのが信頼なら、競争の土俵が変わります。
今日の問い
あなたの会社の売上のうち、「追い風」と「基盤」はそれぞれ何割でしょうか。市況や特需で伸びた売上を実力と混同していないでしょうか。顧客の名前と事情を知り、相談される関係を持つ顧客が何社・何人いるか。その数こそが、環境が変わった時に残る売上の大きさです。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。
