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ローソン最高益、客数と客単価が同時に伸びた訳

小売・流通値決めAI発注客単価個店経営小売

ローソンの2026年度第1四半期は事業利益が19.3%増、全店平均日販59万4000円と第1四半期として過去最高。既存店は客数1.2%増・客単価1.5%増と、通常は打ち消し合う二つが同時に伸びました。AI発注が実は「値決め」の話である構造を読み解きます。

現状

売れ残りを避けるため、閉店前の値引きが日常になっている

理想

何を何時まで定価で売り切るかを、店ごとに決められている

何が起きたか

ローソンが2026年7月16日に発表した2026年度第1四半期(3〜5月)決算は、チェーン全店売上高7581億9500万円(前年同期比3.2%増)、営業収益3105億6200万円(同4.5%増)、事業利益324億8400万円(同19.3%増)、当期利益206億7300万円(同25.3%増)。いずれも第1四半期として過去最高でした。

ローソン 2026年度第1四半期の伸び率(%(前年同期比))
3.2 全店売上高 4.5 営業収益 19.3 事業利益 25.3 当期利益
出典: ローソン 2026年度第1四半期決算(2026年7月16日発表)

全店平均日販は59万4000円で、前年同期から約1万円増えています。国内総店舗数は5月末で1万4629店と、前年同期比で68店減っています。店を増やして伸びた数字ではありません。

顧客は誰で、何に困っていたか

コンビニの顧客が抱えている困りごとは、「安く買いたい」ではありません。行った店に、欲しいものが無いことです。

コンビニは、目的が決まっている買い物の場です。昼のこの弁当、夜のこの飲み物、朝のこのパン。指名されている商品が棚に無ければ、客は代わりの商品を買うのではなく、その日の来店ごと諦めます。しかも、その落胆は記録に残りません。売上データに現れるのは「売れた分」だけで、「買えなかった人」は数字の外側に消えていきます。

一方で、店側にも対になった困りごとがあります。欠品を恐れて多めに発注すれば、売れ残りが出る。売れ残りを減らすために夕方から値引きすれば、粗利が削れ、「この時間に来れば安い」と学習した客が定価では買わなくなる。欠品と値引きは、どちらかを避けようとすると、もう一方が増える関係にあります。ここが長年、コンビニ経営の中心にある構造でした。

付加価値の構造──「発注の効率化」ではなく「値引きしない設計」

ローソンが今回の好調要因に挙げているのは、AIを活用した発注システム「AI.CO(AI Customized Order)」です。個店の特性に合わせて、品ぞろえ、発注数量、そして値引きを推奨する仕組みだと説明されています。

機能
発注システム「AI.CO」が、店ごとの特性に合わせて品ぞろえ・発注数量・値引きを推奨する
便益
来店時に欲しいものが並んでいる状態が続き、店側は売れ残りを見越した値引きに頼らずに済む
価値
客は「行けばある店」として通い、ついで買いが増える。店は定価で売り切れる時間が延びる

ここで見落としたくないのは、推奨の対象に「値引き」が入っていることです。発注システムという名前ですが、扱っているのは仕入の効率だけではありません。何を、いつまで、いくらで売り切るかという値決めの領域に踏み込んでいます。

よくある在庫の考え方
  • 欠品を避けるため多めに発注し、売れ残りは夕方から値引きする
  • 値引きは現場の判断と経験に委ねられる
  • 売価は全店同じ前提で運用される
ローソンが進めている考え方
  • 店ごとの売れ方に合わせて数量を決め、値引きの要否と時間を推奨する
  • 値引きの推奨が本部から仕組みとして届く
  • 同じ商品でも、店によって定価で売り切る設計が変わる

同じ商品でも、オフィス街の店と住宅街の店では、売れる時間帯も残り方も違います。全店一律の運用では、どちらかの店が必ず損をする。片方は欠品で機会を失い、もう片方は値引きで粗利を失う。個店ごとに数量と値引きの設計を分けるということは、値決めの単位を「チェーン」から「店」に下ろすということです。

結果は、既存店の数字に表れています。売上高2.8%増、客数1.2%増、客単価1.5%増。通常、この二つは打ち消し合います。客単価を上げれば客足は鈍り、客数を集めるために安く売れば客単価は下がる。両方が同時に伸びているのは、値引きで客を集めたのではなく、欲しいものが並んでいる状態を維持した結果として、来店と購入点数の両方が増えたと読むのが自然です。

売上が3.2%増える一方で事業利益が19.3%増えている点も、この解釈を支えます。値引きに頼る成長では、売上より利益の伸びが小さくなります。逆になっているということは、売価を守れた時間が増えたと考えられます。

なお、期中には「ハピとく祭」やPontaパス会員向けキャンペーン、アプリクーポンといったお得施策も実施されており、客数の伸びにはこちらの寄与も含まれます。仕組みだけで説明できる数字ではない点は、公平に押さえておきたいところです。

値決めへの接続

コンビニ本部は、商品の定価を大きく動かせる立場にはありません。メーカー希望小売価格があり、競合と横並びの価格帯があります。では、ローソンは何の値決めをしているのか。

値引きしない時間の長さです。

これは、多くの中堅・大企業にとって他人事ではない論点です。多くの会社で、実際の値決めは価格表ではなく、期末の値引き、在庫処分、条件交渉のなかで起きています。価格表の数字を守っていても、そこに至るまでの運用で利益は削られていく。ローソンの取り組みが示しているのは、値決めとは価格を決めることではなく、決めた価格を守り切れる状態を設計することだという事実です。

回収の形は単価の引き上げではありません。値引き前提の在庫を持たなくて済む分の粗利と、「行けばある店」として選ばれ続けることによる来店頻度。店舗数が減っているなかで日販が過去最高を更新した構造は、母数ではなく1店あたりの密度で回収する設計だと言えます。

今日の問い

あなたの会社の粗利は、価格表のどこで決まっているでしょうか。それとも、期末の値引きや在庫処分の場面で決まっているでしょうか。

「値引きせずに売り切れる状態」を、勘や個人の頑張りではなく仕組みとして持てているか。もし持てていないなら、まず自社のどの単位(拠点、商品、顧客セグメント)で値決めを分ければ、守れる価格が増えるでしょうか。

参考: 流通ニュース「ローソン 決算/3〜5月、全店売上高・営業収益・事業利益・当期利益が過去最高に」(https://www.ryutsuu.biz/accounts/s071646.html)/ダイヤモンド・チェーンストアオンライン(https://diamond-rm.net/flash_news/552538/)

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

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