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同じ衣料品、百貨店とスーパーで何が違ったか

小売・流通値決め客単価小売選ばれる理由売場

経産省が7月31日に発表した6月の商業動態統計で、百貨店の既存店は2.7%増、スーパーは2.3%減。同じ月の同じ消費者を相手に、衣料品では既存店で2.9%増と19.7%減という差がつきました。分かれ目は業態ではありません。

現状

同じ商品を、価格の安さで選ばれる場所に置いている

理想

その商品を選ぶ理由が、売場の側に用意されている

何が起きたか

経済産業省が2026年7月31日に発表した商業動態統計速報(2026年6月)で、業態による差がはっきり出ました。

百貨店の販売額は5,122億円で前年同月比1.3%増、既存店は2.7%増。スーパーの販売額は1兆3,584億円で同1.3%減、既存店は2.3%減です。

差が最も大きかったのは衣料品でした。既存店ベースで、百貨店は2.9%増、スーパーは19.7%減。同じ月、同じ国の、同じ消費者を相手にした数字です。

2026年6月 衣料品の既存店売上(前年同月=100)(指数)
102.9 百貨店 80.3 スーパー
出典: 経済産業省 商業動態統計速報(2026年6月)の既存店前年同月比より算出

顧客は誰で、何に困っていたか

ここで注意したいのは、「百貨店の顧客は富裕層、スーパーの顧客は生活者」という説明では、この差を説明できないことです。

同じ人が、同じ月に、両方の店に行っています。分かれているのは客層ではなく、その店に行くときに顧客が抱えている用事です。

スーパーに行くときの用事は、多くの場合「補充」です。今日の食材、切らした日用品。目的は、必要なものを最短で回収して帰ることです。この用事の最中に、顧客は服を選びません。選ぶには時間と判断が要るからです。

衣料品を買うときの用事は「決めること」です。自分に似合うか、手持ちと合わせられるか、長く着られるか。この判断には、試着し、鏡を見て、誰かに意見をもらう時間が要ります。顧客が本当に困っているのは、価格ではなく「決められないこと」です。

百貨店の内訳を見ると、既存店で伸びているのは衣料品(2.9%増)と、その他(6.4%増)。全店ベースでは身の回り品が6.6%増と最も伸びています。一方で百貨店の飲食料品は既存店1.8%減で、スーパーの飲食料品(同1.0%減)より落ち込みが大きい。「百貨店だから強い」わけではありません。 決めることに時間を使う売場が伸び、補充で足りる売場は伸びていない、と読むほうが数字と整合します。

付加価値の構造——同じ商品が、置き方で別の商品になる

衣料品という物理的な商品は、どちらの売場でもほぼ同じものです。差がついたのは商品ではなく、商品に何が添えられているかです。

機能
試着・採寸・接客・品揃えの幅を売場に持たせる
便益
顧客は「自分に合うかどうか」をその場で判断できる
価値
失敗しない買い物になり、価格ではなく納得で決められる

試着室、採寸、接客、比較できるだけの品揃え。これらは商品の一部ではありませんが、顧客の「決められない」を解いています。 顧客が支払っているのは布代ではなく、失敗しない買い物という結果です。

商品を「置く」場所
  • 顧客は、必要なものを最短で回収する
  • 比較の軸は、価格と近さ
  • 単価が上がると、来店の理由が減る
商品を「選ぶ理由ごと」渡す場所
  • 顧客は、決めるために時間を使う
  • 比較の軸は、似合うか・長く着られるか
  • 単価が上がっても、来店の理由は残る

補充の売場に衣料品を置くと、この変換が起きません。試着せず、相談せず、価格と近さで判断されます。そうなると、同じ商品はより安い専門店やネット通販と直接比較されます。既存店で2割近い減少が出ているのは、この比較に負けた分に加えて、衣料品売場そのものを縮小した動きが重なっているためと考えられます。売場面積の削減は統計上、既存店の数字にも表れます。

ここに重要な含意があります。撤退は、価格でしか語れなくなった売場から起きているということです。逆ではありません。安く売ったから撤退したのではなく、選ぶ理由を渡せない場所に商品を置き続けた結果として、価格しか語れなくなり、そして縮小に至る。この順番です。

値決めへの接続

この構造は小売業だけの話ではありません。同じ製品・同じサービスでも、どの場面で顧客に届けるかによって、つけられる値段が変わるという一般則です。

法人向けでも同じことが起きています。仕様書が確定した後の見積依頼に入っていけば、そこは補充の売場です。比較軸は価格と納期しかありません。同じ製品でも、仕様が決まる前——顧客がまだ「何を選べばいいか決められない」段階——で関わっていれば、判断を助けた分が価値になります。

つまり値決めの前提は、価格表ではなく関与するタイミングです。顧客が迷っている時点で会えているか。迷いを解く材料(試作、比較データ、現場での検証、使用条件の整理)を持って行けているか。ここが押さえられていれば、価格は判断材料の一つに戻ります。押さえられていなければ、価格が唯一の判断材料になります。

6月の統計が示しているのは、景気の良し悪しではありません。同じ消費者が、決めるために使う時間には対価を払い、補充のためだけの場所では1円でも安いほうを選ぶ、という選び分けです。この選び分けは、法人購買でもまったく同じ形で働いています。

今日の問い

あなたの会社の主力商品は、顧客のどの場面で選ばれているでしょうか。

顧客がまだ迷っている場面でしょうか。それとも、条件が決まった後の相見積もりでしょうか。

もし後者なら、値上げの前にやることが一つあります。顧客が迷っている場面に、どうすれば一段早く入っていけるか。 その一段が、価格の議論の前に置ける唯一の材料です。

参考: 経済産業省「商業動態統計速報(2026年6月)」2026年7月31日発表/流通ニュース「百貨店/6月の販売額1.3%増の5122億円、既存店は2.7%増」(https://www.ryutsuu.biz/sales/s073144.html)、「スーパーマーケット/6月の販売額1.3%減、既存店は2.3%減に」(https://www.ryutsuu.biz/sales/s073146.html)

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

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