
キッコーマン、3年半ぶり値上げの値決め
キッコーマンがしょうゆ・つゆなど291品を9月から2〜22%値上げすると発表。しょうゆの改定は約3年半ぶりです。定番調味料が値上げしても選ばれ続けるための「便益の言語化」を考えます。
定番調味料は棚の価格比較で選ばれている
鮮度や使い勝手の便益が、値上げ後も選ばれる理由になっている
何が起きたか
キッコーマンは2026年6月1日、しょうゆ・つゆ類・たれ類・みりん類の計291品を、9月1日納品分から2〜22%値上げすると発表しました。しょうゆとつゆの値上げは約3年半ぶり。「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」(450ml)は336円から356円になります。理由は物流費、人件費、製造設備費、原材料費の上昇です。
顧客は誰で、何に困っているか
しょうゆはほぼすべての家庭にあり、なくなれば必ず買い足される定番中の定番です。しかし顧客の困りごとは「しょうゆがない」ことだけではありません。開封したしょうゆは酸化して色も香りも落ちていく。大きなボトルを買えば、使い切る頃には別物の味になっている──多くの家庭が「そういうものだ」と諦めていた、声にならない不満です。キッコーマンの密封ボトルは、この潜在ニーズを「鮮度」という言葉で顕在化させました。定番品の中に、まだ值段のついていない困りごとが眠っていたのです。
付加価値の構造──「鮮度」が価格の階段を作った
構造を分解しましょう。機能は、空気に触れない密封ボトル。便益は、開封後も最後まで色と香りが落ちないこと。そして価値は、「鮮度」という日常の困りごとの解消に、顧客がお金を払う理由が生まれたことです。
従来のしょうゆは容量あたりの単価で比較される典型的なコモディティでした。密封ボトルはそこに「鮮度が保てるかどうか」という新しい比較軸を持ち込み、同じしょうゆの中に価格の階段を作りました。今回の値上げ対象品目を見ても、単なる一律改定ではなく、品目ごとに2〜22%と幅を持たせています。商品ごとの価値の強さに応じて転嫁幅を変える、きめ細かな値決めがうかがえます。
値決めへの接続
約3年半ぶりという改定間隔にも注目すべきです。コストは毎年上がり続けていましたが、頻繁な値上げは顧客との信頼を消耗させます。改定を我慢していた期間は、いわば「価値の貯金」を積む期間でした。鮮度という便益が浸透し、「このしょうゆでなければ」という指名買いが定着してからの値上げであれば、顧客は価格ではなく便益で選び続けます。値上げの成否は改定率の高低ではなく、それまでに便益がどれだけ顧客の言葉になっているかで決まると考えられます。
今日の問い
あなたの会社の定番商品にも、顧客が「そういうものだ」と諦めている不満が眠っていないでしょうか。それを見つけて解消したとき、コモディティの中に新しい価格の階段が生まれます。値上げの前に問うべきは「いくら上げられるか」ではなく、「顧客の何の困りごとに値段がついているか」です。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。



