
味の素、なぜ増収増益を続けられるのか
味の素の2026年3月期は売上高1兆5837億円(3.5%増)、事業利益1811億円(13.7%増)。原材料高が続くなかでの増収増益を支えるのは、調味料を「代替の利かない技術」に変える構造です。
主力品が定番化し、価格は据え置きが前提になっている
技術の便益が語れることで、価格改定後も選ばれ続けている
何が起きたか
味の素は2026年5月7日、2026年3月期決算を発表しました。売上高は前期比3.5%増の1兆5837億円、事業利益は13.7%増の1811億円。調味料・食品セグメントとヘルスケア等セグメントの伸びが増収増益を牽引しました。原材料高が続く食品業界で、着実に利益の質を高めています。
顧客は誰で、何に困っているか
味の素の顧客は二層あります。ひとつは家庭。毎日の食事づくりで「時間をかけずに、確実においしくしたい」という切実なニーズを抱えています。もうひとつは食品メーカーや外食産業。彼らの困りごとはさらに深く、「原料や人手が変動しても、味を安定させ続けたい」という事業の根幹に関わるものです。うま味調味料や香味素材は、この「味のばらつき」という見えにくいリスクを消す道具です。単なる原材料ではなく、顧客の商品品質そのものを支える基盤になっている点が重要です。
付加価値の構造──調味料は「コモディティ」ではない
調味料は一見、価格競争に陥りやすいコモディティに見えます。しかし味の素の構造は違います。機能は、アミノ酸の働きを設計・制御する技術。便益は、家庭でも食品メーカーでも「おいしさ」を安定して再現できること。そして価値は、代替の利かない味の土台として選ばれ続けることです。
家庭用では、味が決まらないという失敗を防ぐ「保険」として機能します。業務用では、顧客企業の製品の味を支えているため、置き換えには顧客側に大きなリスクが生じます。この「置き換えコストの高さ」こそが、価格決定力の源泉です。事業利益が前期を218億円上回った背景には、量の拡大だけでなく、こうした技術に裏打ちされた製品構成の改善があると考えられます。
値決めへの接続
原材料高の局面で、多くの食品メーカーはコスト上昇分の転嫁に苦心しています。そのなかで13.7%の事業増益を確保できるのは、価格を「原価の積み上げ」ではなく「顧客の困りごとの深さ」に紐づけているからだと考えられます。味の安定という便益は、顧客企業にとって製造ラインの歩留まりやブランド信頼に直結します。その貢献が見えていれば、価格改定は取引の断絶ではなく、条件の再確認として受け入れられる。翌2027年3月期も増収増益の計画を掲げており、値決めの土台となる技術投資を続ける構えです。
今日の問い
あなたの会社の主力製品は、顧客のなかで「いくらでも代えが利く材料」でしょうか。それとも「置き換えるとリスクが生じる基盤」でしょうか。同じモノでも、顧客の業務のどこを支えているかで価格決定力はまったく変わります。自社製品が消えたとき顧客に何が起きるか──そこから値決めを見直してみてはいかがでしょうか。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。



