世界のニュースを、付加価値のレンズで読み解く ─ 株式会社カクシン

JTB、高付加価値旅行が利益4割増を生んだ構造

エンタメ・レジャー旅行高付加価値体験価値

JTBの2026年3月期は売上高1兆1,332億円と3年連続で1兆円超、純利益は40.6%増の120億円。MLBツアーや添乗員付き欧州旅行など目的型・高付加価値商品が牽引しました。「手配業」から「体験設計業」への転換を読み解きます。

現状

予約手段の一つとして、ネット価格との比較にさらされている

理想

目的を叶える旅の設計力が、価格比較の外で選ばれる理由になっている

何が起きたか

JTBが発表した2026年3月期連結決算は、売上高1兆1,332億円(前年比5.6%増)と3年連続で1兆円を超え、純利益は40.6%増の120億円でした。海外旅行2,439億円(9%増)、訪日旅行752億円(21%増)、第三国間旅行1,286億円(15%増)、MICE860億円(9%増)と各領域が伸び、MLB観戦ツアーや添乗員付き欧州旅行など目的型・高付加価値商品が収益を押し上げました。

JTB 主要領域の売上高(2026年3月期)(億円)
2,439 海外旅行 1,286 第三国間旅行 860 MICE 752 訪日旅行
出典: トラベルビジョン(2026年5月31日)

顧客は誰で、何に困っているか

オンライン予約サイトで航空券もホテルも数分で手配できる時代に、旅行会社に対価を払う顧客は誰か。それは「手配」ではなく「旅の成功」を買いたい人々です。円安と物価高で海外旅行の総額が上がるほど、顧客の心理は「安く行きたい」から「失敗したくない」へ移ります。慣れない土地での言葉の不安、行程が崩れるリスク、限られた休暇を無駄にする恐れ。憧れのMLB観戦や欧州周遊のような「人生の中で数回の旅」ほど、失敗の許されなさは増します。

付加価値の構造──手配の対価から、体験設計の対価へ

JTBの今期を牽引したのは、まさにこの「失敗できない旅」への回答です。

機能
添乗員付き・目的特化型のツアー設計
便益
言葉や手配の不安なく「行きたい旅」が確実に叶う
価値
お金で買えない時間の失敗リスクをゼロに近づける

添乗員付きツアーや観戦チケット込みのMLBツアーの機能は、移動・宿泊・現地体験の一括手配です。しかし顧客が得る便益は、「何も心配せずに、目的そのものに没頭できる」こと。そして支払っているのは、貴重な時間と大きな出費が無駄になるリスクの解消、つまりリスク軽減の価値です。この価値は予約サイトの価格比較の土俵には載りません。個別の航空券やホテルは価格で比較できても、「確実に叶う体験」は比較のしようがないからです。目的型の商品は価格上昇の影響を受けにくい、と報じられているのはこのためです。

法人向けのMICE(会議・イベント)も構造は同じです。企業にとって国際会議や大型イベントの失敗は許されず、確実な遂行力そのものが対価の根拠になります。

値決めへの接続

利益率の低い「手配の仲介」から、目的を叶える「体験の設計」へ商品の軸を移すことで、価格は原価積み上げではなく顧客の目的の重みから導かれるようになります。売上5.6%増に対して純利益が40.6%増と大きく伸びたのは、この価値の濃い領域が収益構成の中で存在感を増したためと考えられます。同じ1兆円の売上でも、その中身が「比較される手配」か「指名される設計」かで、利益の生まれ方はまったく違うのです。

今日の問い

あなたの会社の商品は、顧客の「買いたいもの」でしょうか、それとも「叶えたいこと」への手段でしょうか。顧客が本当に恐れている失敗を特定し、その失敗をなくすことを商品にできた時、価格比較の土俵から降りる道が見えてきます。

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。編集方針