
エイベックス、ライブが利益3倍を生んだ構造
エイベックスは2026年3月期の純利益予想を35億円(前期比3.1倍)へ上方修正。大型ライブ関連の売上増と、アニメ作品の海外向け販売が想定を上回りました。「複製できない体験」が音楽ビジネスの利益源になる構造を解説します。
複製可能なコンテンツの単価下落に、収益が引きずられている
その場でしか得られない体験が、価格の下がらない収益源になっている
何が起きたか
エイベックスは2026年4月27日、2026年3月期の連結純利益予想を従来から7億円引き上げ、前期比3.1倍の35億円に上方修正しました。営業利益予想も10億円引き上げて40億円に。アニメ作品の海外向け販売が想定を上回ったことに加え、ライブ関連の売上が増えたことが要因です。
顧客は誰で、何に困っているか
顧客は、アーティストを応援するファンと、世界中のアニメ視聴者です。音楽の聴取自体は、サブスクリプションでかつてなく安く便利になりました。しかしファンの本当の欲求は「曲を聴くこと」で完結しません。同じ空間でアーティストと時間を共有し、数万人と一体になる高揚を味わい、「あの日あの場所にいた」という記憶を持ち帰ること。配信がどれだけ便利になっても、この欲求だけは画面越しには満たされない。むしろ日常のデジタル化が進むほど、生身の体験への渇望は強まっています。
付加価値の構造──複製できないものに価値が宿る
音楽ビジネスの収益構造は、この四半世紀で根本から変わりました。CDという複製可能な「モノ」は、配信の普及とともに単価が下がり続けました。複製できるものは、供給が無限に増えるため価格が守りにくいのです。
- 複製できるため単価が下がりやすい
- 聴かれるほど単価は薄まる
- その場限りのため価格が守られる
- 会えるほど支払い意思が高まる
対照的に、ライブは一回性の体験です。その日、その会場、その席は世界に一つしかありません。座席数という物理的な上限があるため供給は有限で、需要が上回れば価格は守られ、むしろ上がります。エイベックスの業績を押し上げた大型ライブの増加は、収益の軸足を「複製できるもの」から「複製できないもの」へ移す動きにほかなりません。
もう一つの柱であるアニメの海外販売は、同じIP資産を地理的に広げる打ち手です。国内で育てた作品の価値を、為替や市場規模の異なる海外市場で改めて収益化する。体験の一回性で単価を守り、IPの展開力で市場を広げる。二つの方向で価値を回収する構造です。
値決めへの接続
ここでの学びは、同じコンテンツでも「届け方」によって価格の守りやすさが変わる、ということです。複製可能な形で届ければ価格は下がる圧力を受け続け、一回性の体験として届ければ価格決定権は作り手側に残ります。純利益3.1倍という回復は、単なる市況の追い風ではなく、価格の下がらない事業への構成転換が進んだ結果と考えられます。自社の商品ポートフォリオの中で、「複製できる部分」と「その場でしか提供できない部分」を切り分けることが、値決めの出発点になります。
今日の問い
あなたの会社の商品やサービスのうち、競合が複製できる部分と、決して複製できない部分はどこでしょうか。複製できる部分で価格競争を戦っていないでしょうか。御社にとっての「ライブ」──顧客がその場に来なければ得られない体験──を商品にできれば、価格はもっと自由になります。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


