カプコン、なぜ新作は定価で売れるのか
カプコンの第1四半期は営業利益410億円、営業利益率58.3%。完全新規IP『プラグマタ』が250万本、旧作を含むリピートが2126万本。定価と割引を同時に走らせても価格が壊れない、値決めの構造を読み解きます。
一度値引きを始めると、定価で買う顧客がいなくなると考えられている
いつ買うかの違いに値段がつき、定価と割引が両立している
何が起きたか
カプコンが2026年7月28日に発表した2027年3月期第1四半期(4〜6月)決算は、売上高704億1000万円(前年同期比54.7%増)、営業利益410億5400万円(同66.9%増)、経常利益414億5200万円(同81.1%増)。営業利益率は58.3%です。通期予想(売上高2100億円、営業利益830億円)は据え置いており、四半期で通期営業利益予想のほぼ半分に達しました。
デジタルコンテンツ事業では、256タイトルを236の国と地域に販売し、販売本数は2381万本(前年同期1416万本)。うちリピートタイトルが2126万本で、残りの約255万本が新作分にあたります。
顧客は誰で、何に困っていたか
ゲームを買う人を「顧客」とひとくくりにすると、この決算は読めません。同じ作品に対して、性質のまったく違う二種類の顧客がいます。
ひとつは、発売日に遊びたい人です。この層の困りごとは価格ではありません。話題の輪に入れないこと、ネタバレを踏むこと、友人と同じタイミングで遊べないこと。待つことのコストが、価格差より大きい顧客です。
もうひとつは、価格が下がるまで待てる人です。興味はあるが、定価で買うほどの確信がない。この層の困りごとは、「面白いかどうか分からないものに定価を払う不安」です。
多くの会社が値決めで苦しむのは、この二つを一つの価格で扱おうとするからです。定価を維持すれば後者を取り逃がし、値下げすれば前者からも安い価格でしか受け取れなくなる。
付加価値の構造──同じ作品を、二度売る
カプコンの第1四半期は、この二種類の顧客に、別々の入口を用意した結果として読めます。
4月に発売した完全新規IP『プラグマタ』は、全世界で250万本を突破しました。まったく新しい体験は、発売直後がもっとも価値が高い。誰も遊んだことがないという事実そのものが、待てない理由になります。ここは定価の領域です。
一方、決算短信にはリピートタイトルについて、こう書かれています。前期2月発売の『バイオハザード レクイエム』は「積極的な価格施策」により累計800万本。2019年発売の『デビル メイ クライ 5』は、新型ゲーム機への展開に加え「映像作品との連携による価格施策」で累計1400万本を突破。旧作については、価格を動かしていることを会社自身が明言しています。
注目したいのは、値引きが「売れ残りの処分」として語られていない点です。映像作品でIPの認知が広がり、新しいゲーム機が普及し、これまで届いていなかった層が現れる。その層に届けるための手段として価格を使っている。在庫を減らすための値下げではなく、顧客層を広げるための値付けです。
- 値引きは、売れ残りを処理するための手段
- 一度下げた価格が、次の価格の基準になってしまう
- 割引はそのまま粗利を削る
- 値引きは、時間が経った作品に新しい顧客を連れてくるための手段
- 新作は定価、旧作は価格施策と、役割を分けて運用する
- 追加の製造原価がほとんど生じないため、割引後も粗利が残る
そして、これが成立する前提が二つあります。ひとつは、デジタル販売が中心であること。追加で1本売るときの製造原価がほとんど生じないため、価格を下げても粗利が残る。第1四半期のデジタルコンテンツ事業は売上高546億4800万円に対し営業利益375億9700万円で、利益率は68.8%に達しています。
もうひとつは、新作の価格が旧作の値引きに引きずられていないことです。時間が経った作品が安くなることと、新しい作品が定価であることが、顧客のなかで矛盾しない。これは、作品ごとの体験の違いが顧客に伝わっているからこそ成立します。すべてが「カプコンのゲーム」という同じ箱に見えていたら、割引の記憶は次の新作の価格交渉に持ち越されてしまいます。
値決めへの接続
カプコンが値段をつけているのは、ソフトそのものではありません。「いつ遊べるか」という時間です。
同じ作品でも、発売日に遊ぶ体験と、3年後に安く遊ぶ体験は別のものだと顧客に受け止められている。だから二つの価格が並立できる。値決めの単位が「商品」ではなく「顧客が受け取るタイミング」に置かれている、と言い換えられます。
これは、ゲーム業界だけの話ではありません。多くの会社が、値引き交渉のたびに「一度下げたら戻せない」という壁に突き当たります。その原因の多くは、値引きの理由が顧客に説明されていないことにあります。理由のない値引きは「本当はその値段でも売れる」という情報として伝わり、次の商談の基準になる。逆に、理由が明確な値引きは、価格の基準を壊しません。カプコンの旧作の価格施策には、新しい機種、新しい映像作品という、顧客にも見える理由がついています。
回収の形は、値上げでもシェア拡大でもありません。同じ開発費で作った資産を、時間軸に沿って二度、三度と回収する構造です。新作255万本に対してリピート2126万本という比率は、その回収がどれだけ効いているかを示しています。
今日の問い
あなたの会社の値引きには、顧客に説明できる理由がついているでしょうか。
期末だから、競合が安いから、担当者が押し切られたから——これらは社内の事情であって、顧客から見れば「その値段でも売れる」という情報にしかなりません。同じ商品でも、いつ・誰に・どんな状態で届けるかが違えば、別の価格をつけられるはずです。自社の商品のうち、時間差やタイミングの違いに値段をつけられるものはどれでしょうか。
参考: カプコン「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(https://www.capcom.co.jp/ir/news/html/260728a.html)
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


