
TOHOシネマズ、全国一律をやめた理由
TOHOシネマズが7月1日、全国一律だった映画鑑賞料金を「劇場ごとに設定する」体系へ転換しました。都心は一般2200円、その他地域は2100円。同じ映画を同じ値段で売ってきた業界の常識を、立地の価値で塗り替える動きです。
全国どこでも同じ値段で売り、立地や体験の差を価格に映せていない
立地・設備・体験の違いが、そのまま価格の根拠として認められている
何が起きたか
TOHOシネマズは2026年7月1日、映画鑑賞料金を改定しました。これまでの全国一律の料金体系を見直し、各劇場の立地特性・設備環境などを踏まえて劇場ごとに料金を設定する方式に転換します。全国74施設で一般料金を100〜200円引き上げ、東京都心・大阪・名古屋中心部の施設は2200円、その他地域は2100円となります。日比谷・新宿・六本木ヒルズのプレミアムシート追加料金は3000円から3200円に改定されました。
顧客は誰で、何に困っていたか
映画館の顧客は「同じ作品を、どこで、どんな環境で観るか」を選んでいます。最新鋭の音響と広いスクリーンを備えた都心の旗艦館で観る2時間と、近所の劇場で観る2時間は、体験としては別物です。ところが全国一律価格の下では、この体験の差はまったく価格に映りませんでした。困っていたのは映画館側です。好立地に高い賃料を払い、上質な設備に投資しても、その価値を回収する手段が「全国一律」の枠に縛られていたのです。顧客の側にも、「良い環境で観たい」という需要が価格として表現される余地がありませんでした。
付加価値の構造──「同じ商品」を「違う体験」に解きほぐす
映画というコンテンツ自体は、どの劇場でも同じです。だからこそ長らく「価格も同じであるべき」という前提が続いてきました。TOHOの今回の判断は、この前提を組み替えるものです。
同じ作品でも、それを観る体験は劇場ごとに異なります。立地(通いやすさ・一等地の空気感)、設備(スクリーンの大きさ、音響、座席)、混雑状況──これらはすべて顧客が受け取る価値の一部です。全国一律価格は、この体験差を「無いこと」にしてきました。劇場別料金は、体験差を価格差として可視化する仕組みです。値上げというより、「これまで価格に映せなかった価値を、映せるようにした」と捉えるのが構造として正確です。
- どの劇場も同じ2000円で並ぶ
- 良い立地の価値が価格に乗らない
- 都心は2200円、地方は2100円で価値を映す
- 好立地・好設備の体験に対価がつく
値決めへの接続
レジャー業界全体で、変動価格制や立地連動価格の導入が進んでいます。TOHOの劇場別料金も、その大きな流れの一つです。ここで重要なのは、値上げの根拠が「原価が上がったから」だけではない点です。都心2200円・地方2100円という差は、コスト構造の差というより「顧客が受け取る体験価値の差」に対応しています。据え置かれた「映画の日」や障がい者割引と組み合わせることで、上げるところと守るところの線引きも明示されました。単価(質)で回収する設計へと、業界の値決めの軸が移りつつあります。
今日の問い
あなたの会社は、同じ商品・サービスを「どこでも同じ値段」で売っていないでしょうか。顧客が受け取る価値は、提供する場所・タイミング・付随する体験によって実際には異なるはずです。その違いを価格に映せていないとしたら、映せる価値をみすみす手放しているのかもしれません。「一物一価」の前提を、一度疑ってみる価値があります。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

