
損保ジャパン、事故の「前」に価値を作る保険
損保ジャパンなど5社が、脳波などの生体データでフォークリフト事故を抑制するプログラムを開発。保険の価値を「事故後の補償」から「事故前の予防」へ広げる、リスク軽減価値の実装例です。
保険の価値が、事故が起きた後の補償として発揮されている
事故を未然に減らす支援そのものが、対価を払う理由になっている
何が起きたか
損保ジャパンとSOMPOリスクマネジメントは2026年4月、NOK、リトルソフトウェア、トヨタL&F神奈川とともに、脳波などの生体データを活用したフォークリフト事故抑制プログラムの開発を発表しました。ヘルメット型デバイスで操作中のオペレーターの脳波を計測し、「集中力の持続度」「注意力の傾向」「ストレスを感じる瞬間」「空間認識力」を約10〜20分で可視化します。実証実験を経て、将来は事故の予兆検知モデルや他の車両・重機、製造ラインへの拡大も検討するとしています。
顧客は誰で、何に困っているか
顧客はフォークリフトを保有する物流・製造の現場です。フォークリフトの事故は人命に関わるうえ、労災対応、操業停止、行政対応と、経営への影響が連鎖します。現場管理者の困りごとは「保険に入れないこと」ではありません。どのオペレーターの、どんな状態が事故につながるのかが見えないことです。安全教育は実施していても、その効果や個々人の特性は勘と経験でしか掴めない。事故が起きて初めて問題が可視化される──この順序を逆転させたいというのが、現場の潜在ニーズです。
付加価値の構造──補償から予防へ
保険の伝統的な価値は、損失を金銭で置き換える補償です。このプログラムはその手前に、新しい価値の層を作ります。
脳波という客観データで作業者の状態が見えれば、配置や休憩の設計、個別の安全指導に根拠が生まれます。勘と経験に頼っていた安全管理が、データに基づく打ち手に変わる。保険会社が長年の事故データと現場ノウハウを持つからこそ、「どこを測れば事故が減るか」を設計できるという点で、本業の資産をそのまま予防サービスに転換した取り組みです。
- 事故が起きてから保険金で償う
- 接点は契約更新と事故対応
- 保険料は損失の分配
- 事故が起きる前にデータで防ぐ
- 接点は日々の安全活動
- プログラムは損失の削減
値決めへの接続
補償だけの関係では、保険料は他社と比較される価格になりがちです。しかし事故を減らす支援がセットになれば、顧客が比べるのは保険料の差ではなく「事故が減ることで避けられる損失」との差になります。事故の減少は顧客の総コストを下げ、保険会社にとっても支払保険金の減少につながる。予防サービスは、顧客と保険会社の利益が同じ方向を向く構造を作ります。将来的にリスク評価の精度が上がれば、安全に投資する企業ほど適正な保険料で報われる値決めへの道も開けると考えられます。
今日の問い
あなたの会社は、顧客の失敗や損失が「起きた後」に呼ばれる存在でしょうか、それとも「起きる前」に相談される存在でしょうか。トラブル対応で発揮している知見を、予防の段階で提供できれば、それは新しい対価の根拠になります。顧客の損失を未然に減らした実績を、御社は金額で語れるでしょうか。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


