
佐川急便、「手ぶらのゴルフ」を誰にでも
佐川急便がゴルフバッグの往復配送「飛脚往復便(ゴルフ)」を会員限定から非会員にも開放。運んでいるのは荷物ですが、売っているのは「手ぶらで移動できる一日」という体験です。
便利な付帯サービスが、会員向けの特典として囲いの中にある
付帯サービスが誰でも使える入口となり、新しい顧客との接点を生んでいる
何が起きたか
佐川急便は2026年6月1日から、ゴルフバッグなどを自宅とゴルフ場の間で往復配送する「飛脚往復便(ゴルフ)」のサービス対象を拡大しました。従来は無料会員サービス「スマートクラブ(個人)」の会員限定でしたが、非会員でも利用可能に。Webや電話での集荷依頼に対応し、サイト上でゴルフ場の検索や配達日の設定まで一括して行えます。片道のみの利用もできます。
顧客は誰で、何に困っているか
顧客はゴルフに出かける個人です。彼らの困りごとは配送料の高さではありません。重くかさばるゴルフバッグを抱えて移動すること自体です。車がなければ電車での移動は現実的に難しく、車があっても行き帰りの積み下ろしは負担です。プレーの前後に疲れる、同乗者の荷物で車が埋まる、前泊の旅程が組みにくい──ゴルフという楽しみの前後に、荷物という小さな苦役が張り付いています。そしてもう一つ見逃せないのは、「使ってみたいが、会員登録が面倒」という利用手前の心理的な壁です。
付加価値の構造──運ぶのは荷物、売るのは身軽さ
サービスの構造を分解します。
前日までにバッグがゴルフ場に届いていれば、当日は手ぶらで移動できます。帰りはフロントに預ければ自宅に届く。運送会社が売っているのは輸送というより、「荷物のことを考えなくていい一日」です。電車で行けるようになれば、帰りの一杯も楽しめる。移動手段の選択肢が広がることは、ゴルフ体験そのものの質を変えます。
今回の本質は、この価値を囲いの外に開いたことです。
- 会員登録が利用の前提
- 既存顧客の囲い込みの特典
- 利用者は会員数の内側に留まる
- 思い立った人がすぐ使える
- 新規顧客との最初の接点
- 市場はゴルファー全体に広がる
会員限定の特典は既存顧客の維持には効きますが、市場の広がりはありません。入口を開放すれば、サービスの利用体験そのものが新規顧客との最初の接点になります。
値決めへの接続
宅配便の基本運賃は比較されやすいコモディティです。しかし「往復」「ゴルフ場と連携した日程管理」という文脈が付いた瞬間、比較対象は他社の運賃表ではなく「自分で運ぶ苦労」に変わります。顧客が天秤にかけるのは数百円の差ではなく、身軽な一日の価値です。さらに、ゴルフで良い体験をした顧客が引っ越しや旅行の荷物でも佐川を想起するなら、この開放は生涯価値への投資として回収される設計と考えられます。
今日の問い
あなたの会社にも、既存顧客向けの「特典」として囲いの中にあるサービスはないでしょうか。それを入口として開放したとき、新しい顧客との接点になる可能性はありませんか。囲い込みのための付帯サービスと、市場を広げるための付帯サービス。同じサービスでも、置き場所によって働きが変わります。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


