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KDDI、価格競争をやめてARPUを上げた方法

IT・SaaS通信価格戦略LTV

KDDIの2026年3月期決算はモバイルARPUが前年比100円増の4,440円。衛星通信などの価値創出で単価を上げ、契約の長期化で解約率低下にこだわるLTV重視戦略が数字に表れた決算です。

現状

単価を上げると解約が増える前提で、値下げと獲得競争を繰り返している

理想

価値創出による単価上昇と解約率低下が、同時に実現している

何が起きたか

KDDIは2026年5月12日、2026年3月期決算を発表しました。モバイルARPU(1契約あたり月間収入)は4,440円と前年から100円上昇。モバイル収入はアクセスチャージの影響を除き前年比500億円の増加です。衛星直接通信「au Starlink Direct」や混雑時に快適に使える「5G Fast Lane」など、他社に先駆けた価値創出が単価を押し上げたと説明されています。

KDDI モバイルARPU(前年比+100円)(円)
4,340 25年3月期 4,440 26年3月期
出典: KDDI決算説明資料(2026年5月12日)

顧客は誰で、何に困っているか

顧客は日常のほぼすべてをスマートフォンに載せている生活者です。料金への感度は高いものの、彼らの深い困りごとは「安くしてほしい」だけではありません。イベント会場や駅で混雑するとつながらない、山や海では圏外になる、災害時に連絡が取れるか不安──「つながって当たり前」の期待が上がるほど、つながらない瞬間の不満は大きくなります。値下げ競争が一巡した市場では、この「つながり続ける品質」こそが選択の理由になります。

付加価値の構造──単価と継続率を同時に上げる

通信業界では長らく、単価を上げれば解約が増えるという前提で獲得競争が続いてきました。KDDIの今回の決算が示すのは、その前提が絶対ではないということです。同社は価値づくりによるARPU成長と、契約の長期化による解約率の低下にこだわる方針を掲げています。

獲得重視の値決め
  • 値下げと特典で新規を集める
  • 乗り換え前提の短い関係
  • 単価×契約数を追う
LTV重視の値決め
  • 価値を足して単価を上げる
  • 契約の長期化と解約率低下
  • 単価×継続期間を追う

衛星通信や優先通信という機能は、「圏外と混雑の不満が消える」という便益に変換され、最終的には「どんな場面でもつながり続ける安心」という価値になります。この価値は日常では意識されませんが、いざという時のために解約しない理由として働き続けます。単価を上げる施策が、同時に継続率を上げる施策にもなっている──ここがこの構造の要諦です。割引で引き留めた顧客は次の割引で去りますが、価値で残った顧客は簡単には動きません。

値決めへの接続

顧客生涯価値(LTV)は「単価×継続期間」で決まります。値下げは単価を削って継続を買う取引ですが、価値創出型の値決めは単価と継続期間を同時に伸ばします。100円のARPU上昇は小さく見えますが、数千万契約と長期の継続に掛け算されると、500億円規模の増収として表れました。値上げの原資をコスト説明に求めるのではなく、先行投資した新しい価値に求める。この順序が、顧客の納得と収益成長を両立させたと考えられます。獲得競争の値引き原資を価値づくりの投資に振り向けるほど、単価と継続の好循環は太くなります。成熟市場での成長戦略の教科書のような決算です。

今日の問い

あなたの会社は、単価と継続率を別々の課題として扱っていないでしょうか。値引きで継続をつなぎ止めるのではなく、単価を上げる理由がそのまま解約しない理由になる価値はどこにあるか。顧客の「いざという時」を引き受けることが、その答えの近くにあります。

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。

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