世界のニュースを、付加価値のレンズで読み解く ─ 株式会社カクシン

ディスコ、営業利益率42%を支える値決めの構造

製造業・B2B半導体高付加価値B2B

半導体精密加工装置のディスコが2026年3月期に6期連続の最高益、営業利益率42.3%を達成。装置と消耗品の組み合わせで顧客の歩留まりを引き受ける、値決めの構造を分解します。

現状

装置は仕様と価格の比較表で選ばれ、納入後の貢献は価格に反映されていない

理想

顧客の量産歩留まりを支え続ける実績が、高い利益率の根拠になっている

何が起きたか

半導体精密加工装置のディスコは2026年4月22日、2026年3月期の連結決算を発表しました。売上高は4,368億円(前期比11.1%増)、営業利益は1,849億円(同10.9%増)で、いずれも6期連続の過去最高。営業利益率は42.3%に達します。生成AI向けの出荷額は前期の約550億円から約750億円へ拡大しました。

ディスコの生成AI向け出荷額(億円)
550 2025年3月期 750 2026年3月期
出典: ディスコ決算発表

顧客は誰で、何に困っているか

顧客は、生成AI向け半導体を製造する半導体メーカーや後工程受託企業(OSAT)です。AI半導体に不可欠なHBM(広帯域メモリ)は、極限まで薄く削ったウェハーを何層も積み重ねて作ります。ここで研削や切断の精度が揺らげば、高価なウェハーがそのまま損失になります。顧客の困りごとは「装置が高いこと」ではなく、「加工品質が原因で歩留まりが落ち、AI需要という機会を取り逃がすこと」だと考えられます。需要が供給を上回る局面では、加工工程の安定こそが売上の上限を決めるからです。

付加価値の構造──装置と消耗品で「削り続けられる状態」を売る

ディスコの事業は「Kiru・Kezuru・Migaku」に特化したニッチトップです。決算短信によれば、精密加工装置の出荷は高性能半導体向けの高付加価値製品が中心で、消耗品である精密加工ツールも顧客の設備稼働率に連動して高水準に推移しました。

機能
ウェハーを切る・削る・磨く精密加工装置
便益
先端半導体の薄化・分割工程が安定する
価値
AI半導体量産の歩留まりと供給責任を支える

注目すべきは、装置(初期投資)と消耗品(稼働連動)の二層構造です。装置を売って終わりではなく、顧客の工場が稼働する限りツールが売れ続ける。つまり同社の売上は顧客の生産量と結びついており、顧客が儲かるほどディスコも儲かる構造です。機能は精密加工装置、便益は薄化・分割工程の安定、価値はAI半導体量産の歩留まりと供給責任。この変換が明確だからこそ、価格が仕様の比較表に還元されないのです。

値決めへの接続

営業利益率42.3%という数字は、日本の上場製造業では突出した水準です。これは単なるコスト管理の成果ではなく、「他社では代替しにくい加工品質」が価格の根拠として顧客に受け入れられている証拠と考えられます。生成AI向け出荷が1年で約200億円増えたのは、値下げでシェアを取ったからではなく、顧客の増産をディスコの加工技術が支えたからです。価値で選ばれる会社は、需要拡大の局面で利益率を落とさずに成長を回収できる。数量の成長と利益率の維持を両立するこの構造こそ、値決めの理想形の一つです。

逆に、需要が拡大する局面で「数量を取るための値引き」に走れば、市場が伸びるほど利益率が下がるという逆説に陥ります。伸びる市場でこそ、価格を守る規律が問われる。ディスコの6期連続最高益は、その規律の積み重ねの結果と考えられます。

今日の問い

あなたの会社の製品は、売った後も顧客の成果と結びつく構造になっているでしょうか。顧客の稼働や成長に連動して自社の売上が伸びる仕組みがあれば、価格交渉は「単価の削り合い」から「成果の分け合い」に変わります。あなたのビジネスの売上は、顧客の何と連動していますか。

本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。編集方針