
アシックス最高益、なぜ高くても売れるのか
アシックスの2026年1〜3月期は純利益465億円(47%増)で同四半期の最高益。牽引したのは高価格帯のオニツカタイガーで、営業利益率は39.6%。高く売れる構造の分解から学びます。
機能の差が価格の差として顧客に伝わっていない
高価格帯が主戦場となり、利益率が価値の高さを証明している
何が起きたか
アシックスが2026年5月13日に発表した2026年1〜3月期決算は、売上収益が前年同期比30%増の2702億円、営業利益が37%増の607億円、純利益が47%増の465億円で、同四半期として4期連続の最高益となりました。牽引役は「オニツカタイガー」で、売上高は34%増、営業利益率は39.6%に達しています。
顧客は誰で、何に困っているか
アシックスの顧客層は、大きく二つに分かれます。ひとつは本気のランナー。彼らの困りごとは「自己記録を更新したい」「故障なく走り続けたい」という、身体と成果に直結するものです。もうひとつはオニツカタイガーやスポーツスタイルを選ぶファッション層。彼らが求めるのは「他人と同じではない、由来のあるスタイル」です。どちらにも共通するのは、靴を「消耗品」ではなく「自分の成果や表現への投資」として見ていること。この認識の顧客には、価格は最後の判断材料でしかありません。
付加価値の構造──靴が「本人の成果」に変わる
機能は、独自素材と設計によるシューズ。便益は、速く走れる、疲れにくい、装いとして誇れること。そして価値は、記録更新や自己表現という「本人の成果」への貢献です。
ランニングでは、アシックスは90ドル以上の高価格帯シューズに注力し、2025年9月末時点で日米欧市場合算のシェア1位を獲得したと公表しています。高価格帯で勝つということは、値引きで数を稼ぐのではなく、性能への信頼で選ばれているということです。一方のオニツカタイガーは、日本発のヘリテージという物語を纏ったブランドで、営業利益率39.6%という数字は、この物語がどれほど強い価格決定力を持つかの証明です。同じ「靴」でも、機能の信頼と物語の希少性という二つの異なる価値がそれぞれ高値で売れています。
値決めへの接続
アシックスの構造で注目すべきは、価値の回収方法を製品ラインごとに使い分けている点です。競技用シューズは、性能の証明(トップ選手の記録や勝率)を根拠にした高価格の維持。オニツカタイガーは、希少性とブランド体験を根拠にした、さらに高い利益率。どちらも「安くして広げる」のではなく「価値を証明して高く売る」方向で一貫しています。四半期営業利益率が2割を超える水準は、製造業としては例外的です。値決めが原価積み上げではなく、顧客が得る成果から逆算されていることの表れと考えられます。
今日の問い
あなたの会社の製品は、顧客の「成果」にどうつながっているでしょうか。速く走れる、疲れない、誇れる──アシックスは便益を顧客本人の変化として語れます。自社の製品仕様を、顧客に起きる変化の言葉に翻訳できたとき、価格の根拠は原価から価値へ移ります。利益率は、その翻訳がどこまで進んだかを測る計器です。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。



