
SmartHR、AIが拾う「つながらない業務」の価値
SmartHRはAIがAPI非対応のWebサービスからアカウント情報を自動取得・可視化する「ブラウザ自動操作」機能を提供開始。誰も引き受けてこなかった「すき間の手作業」に価値を見いだす一手です。
システム間のすき間に残る手作業は、仕方のないものとして放置されている
誰も引き受けなかったすき間業務が、リスク軽減の価値として商品になっている
何が起きたか
SmartHRは2026年5月13日、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」のID管理機能に「ブラウザ自動操作」機能を追加したと発表しました(5月11日提供開始)。AIがWebサービスの画面構造(HTML/DOM)を解析し、API連携に対応していないサービスのアカウント情報をブラウザ上から自動で取得・可視化。取得した情報はSmartHR上の従業員データと自動照合されます。
顧客は誰で、何に困っているか
顧客は、社内で増え続けるSaaSのアカウントを管理する情報システム部門と人事です。企業が使うクラウドサービスは年々増え、入社・異動・退職のたびに数十のサービスでアカウントを作り、消す作業が発生します。API連携に対応した主要サービスは自動化できても、対応していないサービスは担当者が画面を開いて目で確かめるしかない。その結果、退職者のアカウントが残り続ける情報漏えいリスクと、使われていないライセンスへの支払いが静かに積み上がります。「全部は把握できていない」という不安こそが、この顧客の潜在的な困りごとです。
付加価値の構造──自動化の「対象外」こそが価値の在りか
業務自動化の世界では、APIでつながるものだけが自動化され、つながらないものは人手に残されてきました。今回の機能が面白いのは、まさにその「取り残された部分」をAIで引き受けた点です。
機能は、AIが画面構造を解析してアカウント情報を自動取得すること。便益は、API非対応のサービスまで含めてID台帳が最新に保たれること。価値は、情報漏えいリスクの低減と、無駄な利用料の削減です。これはカクシンの分類でいうリスク軽減価値の典型で、「事故が起きなかった」という形でしか現れないため、顧客自身も金額に換算しにくい。だからこそ、可視化して引き受けた企業が価値の定義権を握れます。
- API対応サービスだけ自動化
- 退職者アカウントの消し忘れが残る
- 担当者の記憶と表計算に依存
- API非対応サービスも対象に
- 利用状況が台帳で常に見える
- 従業員データと自動で照合
値決めへの接続
AI機能の値決めでよくある失敗は、「AIを使っているから」という理由で価格を語ることです。顧客が払うのはAIへの対価ではなく、リスクと無駄の削減への対価です。退職者アカウント1件の放置が招く事故のコスト、使われていないライセンスの年間支払額──価値の根拠はすべて顧客側の損失回避に置けます。SmartHRが人事データという「誰が在籍しているか」の原本を押さえているからこそ、この照合には他社が代替しにくい価値が宿る。プラットフォームの中核データと結びついたAI機能は、単体のAIツールより強い値決めの土台を持つと考えられます。
今日の問い
あなたの会社の顧客の現場にも、「仕方ない」と諦められている手作業のすき間が残っていないでしょうか。競合が自動化の対象外として素通りしている領域こそ、価値の定義権をまるごと取れる空き地です。顧客がまだ金額に換算できていない不安を、最初に数字にするのは誰でしょうか。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。


