
ヱビス、なぜ縮む市場で売上105%なのか
プレミアムビール市場が苦戦するなか、ヱビスは前年比105%と伸長。サッポロビールが磨くのは味の物性ではなく「良い時間を過ごせたか」という体験価値です。プレミアムの根拠の置き場所が変わり始めています。
プレミアムの根拠を原料や製法の説明に置いている
顧客の「良い時間」への貢献がプレミアム価格の根拠になっている
何が起きたか
サッポロビールは2026年、ヱビスブランドの戦略説明で「体験価値」への注力を打ち出しました。プレミアムビール市場が苦戦するなか、ヱビスの2025年売上は前年比105%と伸長。飲食店で提供品質を極めた人を認定する「MASTER OF YEBISU」制度も始まります。
顧客は誰で、何に困っているか
ヱビスの顧客は、ビールに「一日の締めくくりの質」を求める人たちです。彼らの困りごとは、単に「うまいビールがない」ことではありません。原料や製法のうんちくを聞いても、日常の一杯が特別になる実感が得にくいこと。つまり「プレミアムを選ぶ理由」を自分の体験として持てないことです。注目すべきは、漫画家・荒木飛呂彦氏とのコラボ缶の購入者のうち68%が新規顧客だったという事実です。味を語る前に、まず「手に取りたくなる理由」が人を動かしました。
付加価値の構造──物性から「情質価値」へ
サッポロビールは2026年の戦略として、物性を軸としたプレミアムからの脱却、物語や共感によるプレミアム価値の創造を掲げています。同社はこれを「感情の質を高め人生を豊かにする価値」と表現します。
構造を分解しましょう。機能は、デザイン缶や醸造体験施設、提供品質の認定制度といった一連の仕掛け。便益は、飲む瞬間だけでなく、その前後の時間まで楽しくなること。そして価値は、「良い時間を過ごせた」という実感そのものがプレミアム価格の根拠になることです。
体験施設YEBISU BREWERY TOKYOは開業2年で来場者30万人を突破し、限定商品の通年販売も始まりました。コラボ缶の新規顧客のうち34%が年内に再購入しています。ビールの中身は同じでも、出会い方と飲み方の体験が変わると、顧客はブランドに残るのです。
体験施設YEBISU BREWERY TOKYOは来場者30万人を突破。コラボ缶で出会った新規客の34%が年内に再購入──中身を変えずとも、体験が人をファンに変えています。
値決めへの接続
プレミアムビールは、原材料や製法の差だけで価格差を説明しようとすると、経済合理性の壁にぶつかります。数十円の価格差を「麦芽の質」で説明しきるのは難しい。ヱビスの打ち手は、価格差の根拠を製品の外側──提供品質、施設体験、物語への共感──に広げることです。認定制度で飲食店の一杯の質を保証すれば、外飲みの単価はむしろ「体験料」として受け入れられやすくなります。値上げで回収するのではなく、プレミアム価格を維持したまま選ばれる頻度と顧客の裾野を広げる構造と考えられます。
今日の問い
あなたの会社は、製品の価格差を「スペックの差」だけで説明していないでしょうか。顧客が思い出すのは仕様ではなく、あなたの製品と過ごした時間の質です。その時間を良くするために、製品の外側で磨けるものは何か。プレミアムの根拠は、カタログの中だけにあるとは限りません。
本記事は、株式会社カクシンが提唱する付加価値経営の視点でニュースを解説するものです。



